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難攻不落の要塞都市、ハイデルベルグ。
内陸部に位置し、極寒の土地に存在するため、攻め入ろうにもまず装備から寒冷地用に切り替えなければならない。おまけに城は重圧な石造り。指導者は先の騒乱から世界を救った大英雄。そういった諸々の理由からハイデルベルグは堅固に守られた、それでいて高い治安を誇る国だと誰もが口を揃えて言っていた。実際、わたしもそう思っていた。
――――だけど、まさか。
「ヒュー!こりゃまたド派手に乗り込んできたもんだ」
「飛行竜で突っ込むなんて無茶で無謀な策をとるやつなんているとも思わなかったわよ……っ!」
「だが、難攻不落の城もこれではひとたまりもあるまい。戦術としては見事だな」
「とにかく急ごう!ウッドロウさんが心配だ!」
石で守られた美しい城はまるでおもちゃのようにあっけなく崩れ落ち、無残な形を保ったままわたしたちの目の前に広がっていた。
消せない想い
Tales of destiny
and 2 dream novel
32 王座へ走れ
とにもかくにも非常事態。
あんな別れ方をした後だったものだから、皆がいつものように振舞えるかどうか不安ではあったのだけれども、目の前の飛行竜はそんなことでさえ細事に変えてしまった。
混乱と悲鳴の混じる街の中、なんとか無事にカイル、リアラ、ロニと合流できたのは良かったのだけれども。
「レクシアはここで残れ」
「その理由は?」
「言わなくても分かっていると思うのだが」
ジューダスがそう言った理由は分かっている。こんな混乱の中、白雲の尾根の中でさえも足を引っ張ったわたしが、恐らく血で濡れているであろう城内を進むことが出来ないと判断したからなのだろう。悔しいことにその推測は大当たりだと思う。けれども、何が起こるかわからないという危険が降りかかるのは、何も戦えないわたしだけじゃない。ここまで一緒に来た大切に思える人たちだから、危険な場所へ送り込むような真似をしたくなかった。
だからこそわたしは、あえて続きを聞こうとした。
「分かっているけど突きつけて欲しいの。……察して頂戴」
「……非戦闘員が戦場に足を踏み入れるのはハッキリ言って足手まといだ。だから来るな」
「今回ばかりは俺もジューダスと同じ意見だ。レクシアはここで市民と一緒に避難してくれ」
「ありがとう、ジューダス、ロニ。………分かったわ」
戦えない自分が歯痒い。
剣を握ることが嫌だった。誰かの肉を裂いて、その返り血を浴びことを避けた。それは生きていくために誰かがしなければならないことだということは分かっていたけれど、自分以外の誰かがすればいいとずっと他人事のように思っていた。
………結局わたしは、汚れ役を背負う覚悟がなかったのだ。当たり前のように肉を食べ、街へ移動するために護衛を頼む。嫌なことを避けて通った結果が、こんな風に大切な人たちが危険な場所へ向かうのを見守ることしか出来ないだなんて、なんて世界は合理的に出来ているのだろう。
「でもあえて言わせて。……あなたたちは城の兵士ではないわ。わざわざ危険に向かうような真似をしなくてもいいじゃない。火中の栗を拾いに行くようなものだわ」
わたしがこう言えばきっとその返事は決まっている。それも分かっていた。だけど、ジューダスやロニが言ってくれたように、置いていかれる立場のものとして未練がましく最後まで足掻いた。
「愚問だな」
仮面の下で、アメジスト色の瞳が柔らかく光る。
「困っている人を助ける!それが英雄の仕事だからね!」
身を乗り出したカイルが元気いっぱいに手のひらを握り締めた。そのまっすぐさに――――叶わない、と思ってしまう。
「………怪我して帰ってきたりしたら許さないんだからね」
「気をつけるよ、レクシア!」
「しっかりカイルをサポートしておくわ」
「リアラがいるなら安心ね。ついでにロニとジューダスもよろしく」
「おいおい、俺たちはオマケ扱いかよ?」
「冗談よ」
預かっていたグミや道具を持ちやすいように小袋に分けたものをリアラに渡す。これから戦地へ赴く皆の助けになるように、祈りを込めて。
「行ってくる、レクシア」
「ええ。……気をつけて、いってらっしゃい」
皆の姿が城の方角へと小さくなっていくのを最後まで見つめながら、胸の前で両手を組んだ。
どうか、無事で。………祈ることしか出来ないわたしはなんて無力なんだろう。
こんなことになるならば剣術の一つでも学べばよかったと思う。けれど、後悔したって何もかもが遅い。今更の付け焼刃でどうにかなる問題でもないことも分かっていたけれど、それでもカイルがリアラがロニが……そしてジューダスが危険な場所に向かうことになった時、隣に立つことが出来ないことが歯痒い。
もっと悔しいのは、こんな風に後悔してもなお剣を握ることが怖いと思ってしまう私自身だ。
白雲の尾根で襲われた時に受けた傷が完治したはずなのに熱を持ったように疼く。あんな痛みを他人に押し付け、それを背負って生きてゆくという覚悟が果たしてわたしにはあるのだろうか?……いいえ、どうしても怖くて仕方がない。
「………みんな……どうか、無事で帰ってきて……っ…」
結局わたしは祈ることしか出来ないのだ。
「そんな風にうじうじ悩んでるんだったら、一緒に行けばいいじゃないか」
「………わたしには力がない。みんなの足手まといになるのがせいぜいのオチよ。自分の気持ちを押し付けて全員のリスクを上げるだなんてそれこそ本末転倒よ……!」
「ふーん、なるほどなぁ。でもさ、結局それって自分の気持ち押し殺してるわけだよな」
「この年になったら押し殺すことなんていくらでもあるわよ。大体…………って……え……?」
流れてきた声があんまりにも自然なものだったから思わず答えてしまったけど、そう言えばわたし、誰と話しているの……?
慌てて声がした方角へ顔を向ける。
「あ、あなた……!」
そうして振り返った先にあった顔というのは。
「よっす!久しぶりだな」
「久しぶりだな、じゃないでしょう!あの時はよ・く・も・やってくれたわね……!!おかげさまで大変な目にあったんだから!」
「いやいやいやいや、確かに俺も悪かったと思ってるよ!だけどあの霧だろう?逸れちまったのは仕方ないというか不可抗力というか……そんな怒るなよ……」
「そりゃ怒りたくもなります!あなたがいなくなったおかげでこっちはモンスターに襲われて全治二ヶ月の大怪我よ!護衛の意味が全くなかったじゃないっ!」
「いや〜……タハハ、そりゃあご愁傷様で……」
「誰のせいだと思っているのよ!!」
「……………俺?」
「……分かっているじゃない。本来は護衛料金返却モノなんですけれど?」
「うぃ。……いやぁ、だからこうして名誉挽回のためにこうして俺が現れたわけじゃないか」
「またそういう上手いことを言って………ってえ?」
「行きたいんだろう?ハイデルベルグ城へ」
ノイシュタットで以前雇い、そして逸れてしまったままそれきりになっていた男は、にやりと口角を上げて笑う。それはまさに悪魔の囁きに似たような甘美な響きを伴っていた。
皆はウッドロウ王を助けたい。けれど道中には危険が伴うため、わたしは救出劇に参加することが出来なかった。……けれどもし、その危険な道をわたしだけを守る目的で同伴してくれる誰かがいたら……?
「あなた……腕は錆びてないでしょうね?」
「勿論だぜ。それに俺はまだ給料分の仕事はしてないわけでな。……これでも結構義理堅いんだぜ?」
わたしは非力だ。けれど、大切に思っている人たちが危険に飛び込んでいく最中、見守るだけだなんて嫌だ。それに年長者のわたしが真っ先に尻尾を巻いて逃げ出すような真似、大人としても許せない。
「ハイデルベルグ城へ行くわよ。……クラッシュ」
「あいさ、レクシア姉さん」
立ち止まったまま言い訳するだなんて、そんな狡賢い大人な自分はここに置いてゆこう。わたしは今思い、信じるものを選ぶ。例えそれが危険と隣りあわせだったとしても後悔するよりずっといい。
この混乱の中、幸い道具屋の主人は店を開いてくれた。……正確に言うと開かせた、というのが正解なのかもしれないけれど。とにかく、戦えない私が出来ることといったら物資を城へ届けることだ。グミに消毒液、包帯、塗り薬、痛み止め、持てる量の水。とにかく医療品を中心に、ある程度の量まで買い込むと待たせていたクラッシュと一緒に、飛行竜が突っ込んだ時計塔から城へ入る。
クラッシュは一体どこから調達してきたのか、先ほどまで持っていなかった二本の剣を持っていた。前回護衛を頼んだ時もそうだったけれど、武芸者を装っている割にはこの男は武器を持ち歩こうとしない。必要な時に必要な分だけをどこからともなく調達してくるようだ。
「………襲撃者はモンスターも一緒に連れてきたって訳か」
「飛行竜ごと城に突っ込んどいて今更人道的配慮とかはなさそうね……。でもまあ足止めには十分なのでしょう」
「だな。本命は王の下へってか」
「……そうね。それにカイルたちの姿も見当たらない。急ぎましょう」
「おおっと、さっそくお出ましだ」
瓦礫で足場の悪い王城内部は、気味の悪いアンデット系のモンスターで蠢いていた。これでは襲撃者の趣味を疑ってしまう。前かがみで気味悪くカタコト動くスケルトンが三体こちらに気が付いたようだ。
「ノイシュタットで払った給料分、しっかり働いて頂戴ね」
「この程度軽い軽い。任せとけって!」
そう言ったクラッシュは軽い身のこなしでひょいひょいとスケルトンが繰り出す突きを避ける。にやにやと意地悪く笑いながら軽業師のように動き回るその様は、確かに見ていても安定感がある。
「……一応、命懸かってるだからもっと真面目にやればいいのに」
一言で言うとまるで曲芸を見ているような戦いぶり。カイル達の戦い方のそれとは随分違って見えるのは、恐らくこの男が根っこから戦うことを楽しくて仕方ないと感じているからなのだろう。クラッシュの戦い方をあまり見たことがなわたしがそう感じてしまうくらいに、彼はそれはそれは楽しそうに敵の攻撃を避けていた。
「一応時間ないからさっさといくぜ………俺流!爪竜連牙斬ッ!!」
瞬殺。まさにその一言に尽きた。
一撃、二撃、三撃と綺麗に一体ずつ突いたり、相手の急所を砕き割ったりする動きには迷いがなくて、すべらかだ。それでいて流れる水のような流動的な美のある剣技だった。
「早いのは助かるからいいんだけれど。その……俺流って何?」
「ああ。この技はある人が使っていたのを見よう見真似でパクったんだよなー。で、その大元が剣一本でやってたんだけど俺は二刀流だから俺流」
「別に一本剣でやればいいじゃない」
「やだよ。なんか二刀流の方が格好良さげじゃんか」
「……まさか、あなたそんな単純な理由で二刀流なの?」
「ははははははははは!」
「……はぁ、頭が痛いわ……」
クラッシュの戦い方は剣技だけではなかった。時には足を使い敵を引っ掛けたり、けり倒したり、剣を投げつけたり、もはや滅茶苦茶だ。それでもその技一つ一つが妙に様になっていて、飽きない楽しさを感じさせるような戦い方だった。
はっきり言ってしまえば、それだけここのモンスターとクラッシュの技量には差があったのだと思う。戦いに関してはズブの素人のわたしでもクラッシュが圧倒的ということは分かった。そう、まるでジューダスの戦いぶりを見ているような安定感があるのだ。ジューダスがリオンだったということを考えれば元客員剣士の腕前を持っていたわけで、ズバ抜けた技量も当然のことかもしれないけれど、それに引けを取らないクラッシュの動きには素直に感嘆した。
「雑魚ばっかりだな」
「カイル達が先行しているはずだもの。あらかた倒してしまっているんでしょう」
「つまんねーぜ」
「あら、わたしには大助かりだわ」
「ちぇー」
広間までクラッシュと一気に通り抜ける。
入ったことがないので王城の造りはよく分からなかったけれど、クラッシュの方はそうではなかったらしい。王座の方角まで事も無げにスイスイと進むことが出来たのは、ひとえにクラッシュのおかげといっても過言ではなかった。
何の苦もなかったと言えば、正直そうとも言い切れない。
実際、戦闘面ではクラッシュがいてくれたおかげで苦労することはなかったけれど、傷ついた城の兵士を置き去りにして先に進むということ、何より、床の上に瞳孔が開いたまま投げ出されたままの死体を見ることに吐き気を催した。ジューダスの予想はそういった意味で見事に的中したわけだ。普段から生き物の殺生に関わることを避けていたわたしにとっては、血生臭い戦場は何もかもが残酷で、目の毒だった。
それでも辛うじて理性をギリギリまで保って強がっていられたのは、この捉えどころのない男がいたからだった。戦場でも余裕のスタイルを保つクラッシュに、年齢的にも上のはずの自分が負けてたまるものかという負けん気だけでここまでやってきた。
人間というものは不思議なもので、どんなに凄惨な状況でも数を見れば慣れる。感覚が麻痺をしてくる。
いくつもの広間を通り抜けてゆく内に、始めは吐き気を催した光景にも耐えられるようになってきた。そう、わたしには吐いている時間なんてない。一刻も早く、ジューダス達の無事を確かめるということをするまではそんな場合じゃないのだ。
「そろそろお目当ての王座だぜ」
「……結局、ここまで追いつけなかったわけね。ウッドロウ王は無事なのかしら……」
王座が近いということは、襲撃者も近いということ。カイル達が王座まで辿り着いてしまっているのならば、その襲撃者と交戦している可能性はかなり高いということだ。カイル達の技量を疑うつもりはないが、敵は少数で城を叩こうとする選りすぐりたちばかりのはずだ。……嫌な予感がした。
「静かに!……声が、聞こえるぜ」
『お………えは……バル……ス!!……』
「この声は………カイル…?」
急に肩の力が抜けるような気がした。良かった……無事だった。その思いが安堵で胸をいっぱいにする。
「………レクシア姉さん。ちょっとそこの柱の影に隠れておいた方がいい」
「……え?」
「姉さんには分からないかもしれんが、この扉の先にいる奴はかなりの手練れだ。正直、俺でもヤバい」
「そ、そんな……じゃあ、ジューダスたちは……」
「そいつらの技量はどうか知らんが、よっぽど腕が立つ奴じゃないと………怪しい」
「そんな……っ!!?」
ようやく辿り着いたという安堵が一気に真っ黒く塗りつぶされる。
ジューダスはともかく、カイルたちの技量がクラッシュの域にまで到達しているのかどうかということは、素人目でも分かることだったから。
突然押し寄せてきた不安が胸を鷲掴みにして、ぎゅうぎゅうと絞り上げるような息苦しさが体全体を襲う。喉が水分を求めてカラカラに渇いた。
「……………ん……」
猫のように扉の前で身じろぎ一つせずに聞き耳を立てていたクラッシュが眉を上げた。
「……ヤバイやつは……消えた?……気配がなくなった……」
「ジューダスたちは!!?」
「……うん、気配はそのままだぜ。無事のはずだ……」
「良かった……っ…」
いつまで続くか分からなかった息苦しさは、思わぬ方向へ事態が転んだことで開放された。
クラッシュの言うヤバい奴がなぜ突然、それもこの真正面の扉を通らずに消えたのかは謎だったけれども、少なくともジューダスたちの無事が約束されただけでも本当に良かった。彼らの命が無くなるようなことになったら……そんな恐ろしいこと考えたくもない。
「とにかく一回中に入るか。危険はないとはいいきれないが、中の奴らと合流したおいた方がいいだろう」
「そうね。それにウッドロウ王のこともどうなってるか……」
「開けるぞ」
そうしてクラッシュが扉に手を当てて―――――開け放った。
「誰だっ!!?……………………………ってレクシア!!?」
「良かった、元気そうね」
「レクシア!?なぜここに!?」
「やっぱりあれから皆のことが気になってね。とにかく、今はそんな与太郎話は後!あそこにいるのがウッドロウ王ね」
「……ああ。今リアラがヒールをかけている所だ。傷は深いが辛うじて急所は外れていた」
「良かった。じゃあ間に合うのね。救援物資を持ってきたから、とにかく手当てをしましょう」
「助かる!」
バッグの中から包帯と消毒液を用意する。リアラがヒールである程度癒しているようだけれど、傷が大きすぎて回復が追いついていない。同時に消毒液で菌を洗い流しながらの平行作業の方がより効率的に思えた。
「ご無礼を承知で失礼します。かなり染みると思いますが、我慢してください」
消毒液のキャップを外して傷口の上に直接垂らしてゆく。傷の大きさから考えても恐らく焼けるような痛みを感じていることだろう。陛下の呻き声がなによりの証拠だったが、まだ痛みを感じているうちには命に別状はなさそうに思えた。
「フィリアさんに続いてウッドロウさんまで……このままでは時の流れに大きなひずみが生じて……」
回復晶術をかけながら呻くようにしてリアラが呟く。その言葉を近くにいたわたしは聞き取ることは出来たけれども、どういう意味で言ったのかまでは分からなかった。
「……!…まさか、これは全部あの人の仕業なの……!?」
「だとしたら何だというのかしら……リアラ?」
突如として声が聞こえた。――――透き通るような、女の声。
「なるほど……実に彼らしい。どんな英雄であれ、容赦はしないということか……。あの時素直にレンズを渡していればこんな目に遭わずにすんだものを……」
「………え……?」
振り返った先に立っていたのは、真っ白な神官服に身を包んだ女の姿だった。見覚えは全くと言っていいほどない。けれども、わたし以外の全員は彼女のことを知っていたようだった。
「エルレイン!あなたは間違っているわ!こんなやり方で人々は救えはしない!」
「では、おまえはどうするの?未だに何も見出せないお前に救いが語れるとでも言うのか?」
「そ、それは……」
「ど、どうなってんだ!?何でエルレインがここに!?それにリアラ、どうして君はエルレインのことを……」
リアラとエルレインという女の不思議なやり取りに口を挟んだのは、やはりというかカイルだった。そのカイルの言葉に続くようにロニが斧を構える。
「分かんねえことだらけだが、一つだけハッキリしてることがあるぜ。それは、あの女が黒幕だってことだ!いくぞッ!覚悟しろ、エルレイン!」
止める間もなかった。エルレインへと突っ込んだロニは、突如として影のように現れた男によって武器ごと薙ぎ払われ、城の柱まで吹き飛んでしまった。
「……くっ!こいつ……!」
「エルレイン様には指一本触れさせん」
「ならばっ!」
ロニに続くようにして男の死角へジューダスが潜り込もうとしたが、彼もまたロニと同じように柱へと弾き飛ばされてしまった。視界を横切った黒が鈍い音を立てて床へ沈むのに悲鳴が漏れる。
「ジューダス!ロニっ!」
「人の救いは神の願い。それを邪魔するものは、誰であれ容赦はしない」
「やめて、エルレイン!」
神官服に身を包んでいるということは、この女は協会に属するものなのだろう。神に祈りを捧げ、愛を説く神官とは思えぬほど冷たい光を宿した瞳が、リアラを見下す。
「私を止めることは誰にも出来はしない……そう、例えお前でもだ、リアラ」
女が手を振り上げる。その手には何も握られていないはずなのに、何故だかとても嫌な予感がした。いや、ロニとジューダスへの対応を考えたらリアラに何かしようとするのは明らかなことじゃない……っ!
「いやっ!やめてッ!わたしはまだここで果たすべき使命が……!」
震える声のまま体を硬くしたリアラを庇うように前に立つ。
「リアラに何をする気ですかッ!!?」
わたしは戦うことは出来ない。剣も槍も斧も握れない。そんなか細くて頼りないかもしれないわたしだけど、目の前で震える女の子を前にして何もしないだなんて腑抜けたこと、出来るわけなかった。もうどうにでもなれと思う。一度は死を覚悟した身だ。この旅でわたしに色々なものを分けてくれた子たちを守ることが出来たら、もう、それでいい!
「……ほう、毛色の違うものもここにはいるのか。……くくく、はははは……!これは何とも愉快な組み合わせではないか……」
「…………な、何が面白いのかしら?」
「『それ』を分かっておらぬのか。………十分な余興になった。だが、私の意志は変わらない……」
「だから、何が面白いのよ?」
意味深なことを呟くエルレインに対しての精一杯の虚勢は、結局震えて掠れてしまったけれど、逃げ癖がついてしまっていたわたしにしては上等だったと思う。
「未だに何も見出せぬ者にここにいる意味はない……帰るがよい、弱き物よ」
―――――腕が、振り下ろされる。それがわたしでなくリアラを狙ったものだということに気が付くことに、少し時間がかかった。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!」
「リアっ………きゃああっ!」
咄嗟に喉から迸った悲鳴は、呆気なく目の前に広がった白い世界の中に飲み込まれて消えていった。
遠くで、ロニとジューダスがわたしたちの名前を呼んだような気がした。
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