―――――暑いわ。
ぼやける意識の中で思ったことは、まずそれだった。とにかく熱い。刺すような熱戦の中で羽毛布団に包まって眠っているような、そんな季節感を考えない蛮行をしているような感覚。
「……………」
「お。やっと起きたか。おはようさん」
「………この暑さの中でなんでわたしは毛皮のコートに包まって眠っていたのかしら?」
「いや、それより先に聞くことがあるはずだと思うんだが」
「いいえ。まずコートを脱ぐことが一番始めよ。熱くて死にそうだわ」
「あー……うん、そうしたらいい」
巻きつけるようにして包まっていた毛皮のコートを手際よく脱いでゆく。肌が外気に触れた瞬間、すっと風が抜けるような感触がした。案の定全身の毛穴という毛穴から汗が吹き出ていて、衣服が肌に張り付いて妙に居心地が悪い。それでもコートを着ているよりは随分マシな暑さになったような気がした。元々十分すぎるくらいに暑いわけではあったけれども。
呆気に取られているように口を開いて間抜け面を晒しているクラッシュは、案の定というかすっかり軽装になっていた。目覚めた彼もやはり早々にコート類は脱ぎ捨ててしまったらしい。
「……さて、と」
コートを綺麗に折りたたんで鞄の中に……までは流石に入らなかったので脇に置いておく。そうして一段落着いたところで、わたしはようやくクラッシュに向き直った。
「何でわたしはこんな暑いところにいるのかしら?………目が覚める前まではハイデルベルグ城にいたはずよね?」
「それが最初に来るはずなんだがなぁ……」
クラッシュの小声の呟きは、この際無視することにした。




























Tales of destiny and 2 dream novel
33 見知らぬ場所で






「………結局、何も分かっていないということじゃない」
「ま・要約するとそうなるなっ!」
「なんでそんなに自信満々なのよあなた……」
クラッシュから聞き出した情報というのも、わたしが現在持っている状況情報と大差がなかった。つまり、全く何も分かっていないという状態。
目が覚めたら何故かわたしとクラッシュの二人きりになっていて、城の中から一転して硬くて暑い土地へ。ハイデルベルグは土地柄、ほとんど通年雪に覆われている。そんな場所にいきなり乾いた土と熱線が降り注ぐはずもなく、とにかく、信じられないことにわたしたちはハイデルベルグとは違う場所に来てしまったらしい。
「………一体、どのくらいの間わたしたちは眠っていたのかしら……」
普通に考えて、ハイデルベルグからこの灼熱の大地に移動するまでには一日二日では足りないだろう。つまり、その辺りの辻褄を合わせようと思ったらわたしたちは何日もの間昏睡状態に陥っていたということになる。目覚めたときのことを考えれば、とてもじゃないけれど昏睡状態に自分がなっていたとは考えられないけれども、そう考えるしかないのだ。
「それにリアラは………?ウッドロウ王は……?あのエルレインとかいう女は何をしようとしていたのかしら……?」
「そんなに疑問ばっかりじゃどうにもならないぜ」
「………確かに、それもそうね。わたしたちが何日もの間眠っていたと考えると、事態はとっくの昔に動き終わっているでしょうし」
「その通り!まず、目の前の問題をどうするかがよっぽど建設的ってもんだ」
「そうねぇ。………ずっとこのままって訳にもいかないでしょうし……」
ああやって、視線をクラッシュから外して辺りの景色へと移す。
目の前に広がったのはとても立派とは言い難いが、それでもささやかながら水を湛えた小さな泉が湧き出していた。その泉を囲うようにして植物たちが僅かながらも葉を伸ばし、影を作っている。
空は晴天。風はほとんどなく、空気も乾いている。微かに舞ってくる砂塵から、ここを離れてしまえば過酷な環境が広がっていることを容易に想像させた。
つまりここは―――――砂漠の中の小さなオアシスというやつだった。
「……誰が一体どういった目的でわたしたちをこんなところに置き去りにしたのかは分からないけれど、かなり厳しい状態ね、これ」
「まだオアシスの傍で転がしてくれただけでも良心的だと思ったほうがいいぜ」
「そうね。ただ、もっと贅沢を言えば人里に転がして欲しかったわ」
「言うなぁ」
「もうこの状況についてうだうだ考えるのはやめたの。まずは目の前の危機をどう乗り越えるかだわ。……いつまでもオアシスにいるという訳にはいかないし」
「確かに」
オアシスの向こう側に広がる砂丘に目をやりながら考える。確かにここは砂漠の真ん中に転がされるよりもよっぽど良心的な場所ではあったけれど、所詮、無人のオアシスだ。わたしたちが欲しいのは、現在ここがどういった場所で、ハイデルベルグ城の異変から一体どれくらいの時間が経過しているのかという情報。そのためには絶対条件として、人里まで辿り着かなければならない。なによりここには食料がないため、わたしたちが生きていくためにも人の住んでいる場所へ進む必要がある。
「幸運なことにわたしは医療用の水を何本か持っているわ。今の内に水分補給をしておいて、これからはこの水でやっていきましょう」
「本当、ラッキーだったぜ。レクシア姉さん様々だな」
「まったく、こればっかりはラッキーとしか言いようがないね」
オアシスの水を手にとって掬い取ってみる。湧き出していた水は思ったよりも透き通っていて、これなら口にしても良さそうに思えた。
「ああ、水は大丈夫だぜ」
「………どうして断言できるのかしら?」
「俺がもう毒見しちまった」
「………ああ、そう。なら安心して飲めるわね」
わたしは安心だけれども、クラッシュはその辺りの危険性は考えなかったんだろうか?考えれば考えるほど頭が痛くなってきたような気がしたので、クラッシュのことはひとまず置いておくことにした。どうもこの男と一緒にいると自分のペースを崩されているような気がする。
「とにかく皆の安否が気になるわ。準備が済んだらさっさと先へ進みましょう」
「おいおい?どこに進むかは分かっているのかよ、レクシア姉さん」
「そんなの分かるわけないでしょう。右も左も砂漠なのよ?………こうなったら女の勘を信じるしかないわね」
「あー……そんなことだろうとは思ったが、姉さん、意外と肝が据わってんのな。まぁ、それは置いておいて、だ」
つ、とクラッシュは指を北東の方角へ向けて断言した。
「俺たちが進むべき方角はこっちだ。建物の影が僅かに見えているからな。見たところ距離もそんなに大した事ないな」
「………え?建物の影……なんて、わたしには見えないんだけど」
「まぁ、普通の人の視力じゃそんなもんだろうな。だが俺の視力は2.5だぜ?」
「………どれだけいいのよ。とにかく、目指す場所が分かっているのならかなり助かるわ。ありがとう」
「お、おう。もっと褒めてもいいんだぜ?」
「褒めすぎたらあなた調子に乗りそうだから、このくらいにしておくわ」
「姉さんのケチー」
「水、あげないわよ?」
「嘘です、すみませんレクシアお姉さま」
「もう、調子がいいんだから」

十二分に体を休めた後、オアシスを後にしたわたしたちはクラッシュの言った北東の方角へ進むことになった。細かい粒子の砂は容易く足を沈め、歩いても歩いてもなかなか先へ進めない。雪国で育ったわたしにとって砂漠の道筋は、思った以上に困難を極めた。
対照的にクラッシュの方は元々軽装だったことに加えて、暑さに耐性があるようだった。少なくともわたしよりは元気に道を進んでいる。それでもいつもに比べて口数が少ないところを見ると、やはり彼も相応には消耗しているようだった。
「げぇっ、出た」
「………え?」
嫌そうにクラッシュが声を漏らす。
何かと思って、前方のクラッシュの影から顔を覗かせてみれば―――…なるほど、目の前には大きな翼を広げたモンスター三羽迫ってきていた。どこか禿鷹を思わせるような風貌のそのモンスターは、鋭い嘴を光らせて一斉に降下してくる。
消耗しているこちらの都合なんて知る由もない。いや、消耗しているからこそやってきたのか。この砂漠の中で生き延びてゆくためには、彼らモンスターだって必死なのかもしれない。
「―――姉さん!」
「何!?」
「荷物よろしくっ!」
荷物を投げ渡したクラッシュが剣を抜く。
そう思った次の瞬間には、煌く刃がモンスターの翼を根元からばっさり切り落としていた。断面部から鮮血が勢いよく噴出し、白い骨を紅く染め上げる。
「………っ」
まるで子供が描き散らかしたキャンパスの上みたに、細かい砂の上には紅色の模様が広がっていた。
「ふぅ、一丁上がりっと」
「……あんまり綺麗な光景とは言い難いわね」
「ああ。だが、こいつらが生きるのに必死なように、俺たちだって生きるために必死なんだ。……そうだろう?」
「ええ。……そうだわ。クラッシュの言う通りよ」
「さ、行こうぜ」
わたしたちは生きるために、血溜まりを越えて行く。
それは今まで見ないようにしていただけで、本当は当たり前のように存在していたはずの出来事。ようやくそれをわたしは『わたしの事』として実感し始めていた。
生きるために人は何かを犠牲にしている。その犠牲に目を背け続けて生きていくのもまた一つの生き方なんだと思う。
でもわたしはもう何度も見てしまった。その犠牲をちゃんと受け止めて生きている人たちのことを。
「もう、やめるわ」
「………ん?どうしたんだ、レクシア姉さん」
「ふふ、わたしの話よ。そうね、突然だけど今度落ち着いたら、クラッシュ、戦い方を教えてくれないかしら?」
「………遊び半分で剣に手を出したら痛い目見るぜ?」
「わたしが遊び半分で言うと思う?」
「いいや、さっぱり。言ってみたかっただけだぜ」
「それにわたしは剣に手を出す気はあまりないわね」
「お?」
「晶術の方よ。武芸者ならちょっとは使えるんでしょう?」
「おー、なるほど。そっちなら姉さんに向いてると思うぜ。確かになぁ……」
相槌を打つクラッシュの横顔は楽しそうに見えた。あれはコツを掴むまでが大変だとか色々話してくれるところを見ると、結構やる気になってくれたらしい。
なんだかんだ言いながら、この男は面倒見がいい。それに思わずくすりと笑みを零して、抜けるように真っ青な空を見上げる。
――――逃げて、誤魔化して生きるのは、少なくともこの旅が終るまではやめてしまおう。
心の底から、わたしはそう思った。



「………やっと着いたわ」
「うーむ。海に面した町とはなぁ。それにしては静か過ぎるのが気になるが」
「そうね。港町ってもっと賑わってるものだと思うんだけど。……ここは、ちょっと……変な感じね」
「ま、外からグダグダ言っても仕方がない。とりあえずは中に入っちまおうぜ」
「そうね。砂埃と汗で体中ベトベトだし。どこかでシャワーでも浴びたいところね」
「おっ、いいねぇ」
「言っておきますけど、覗いたりしたら……」
「やだなぁ、姉さん!俺はそういうことはしない紳士なんだぜ?」
「………」
「はい。やりません、神に誓って」
「………よろしい」
相変わらずクラッシュと話をすると横道にそれてしまう。
とりあえず、町に入るという本題に軌道修正をしたところで、わたしたちは町の中へ進むことにした。石と気でくみ上げられた土台に足を踏み入れたところで、ふと、町の入り口に掲げられている看板に目がいった。
「………チェ…リク………?」
「うん?どうしたんだ、レクシア姉さん?」
「ああ、ここに看板が……。チェリクって……まさかあのチェリク……?」
「うん?」
「……分かってないのね。チェリクと言ったら、カルバレイス地方にある港町のことよ。ハイデルベルグのあるファンダリア地方とはまず大陸から違うの。位置も恐ろしく離れているわ。………まさか、そんなことって……?」
「まぁまぁ姉さん、難しいこと言ったって俺にはさっぱりなんだぜ。とりあえうずそのカル……なんとか地方のチェリクだっていう確証はないんだろ?もしかしたらファンダリアの近くにチェリクっていう港町とかあるかもしれないし」
「……わたしはファンダリア出身よ。そんな町、あったら絶対知っているわ」
「………ううーむ」
「でも、とにかくクラッシュの言う通り町へ入ってみるしかないようね。とりあえず、行ってみましょう」
入り口の看板はこの際捨て置いて、中へと進む。
外観からも活気のなさはなんとなく感じられていたけれども、町の中へ入るとそれはより一層顕著なものになった。
人が、いないのだ。町の規模は、家の数からしてそれなりのものなのだろう。その家一軒一軒から生活観が感じられないのだ。荷物や家財は外から見る限りでも残っていることは見て取れた。けれども、それらにはすでに埃や汚れが積もっており、長い間放置されたままの状態であることが感じられた。
「………何よ、これ」
家はあるのに人がいない。
町に入ってからすでに10分は経過しているのに誰とも人とすれ違わないだなんてこと、あるのだろうか?すっかり寂れて物悲しい雰囲気の漂う町は、どことなく落ち着かない。ギシギシと歩く度に僅かに軋む板の上を歩きながら、住民を求めてわたしたちは歩いた。
「なんか、気味が悪いな」
「奇遇ね。わたしも同じ感想を持っているところよ」
水の上に住処を構えた、色彩豊かな美しい町。活気があればさぞや見る者を楽しませる町だったのだと思う。だが、そこで生活する者がいなければ町は死んでゆく。まさにその通りで、ひっそりとした町は見た目の華やかさに反して、静かに朽ちてゆこうとしているような……そんな印象だった。
「人は……いないのかしら……?」
「お、あそこの宿屋からは匂いがするぜ」
「匂い?」
「おっ、これはカレーの匂いだな。海の上だから海の幸がたくさんあるんだろうなぁ………。よし!行ってみようぜ!!」
「え!?あ、ちょっと待ちなさいよ!クラッシュ!!」
匂いがするという宿屋らしき建物に向かって一直線に駆け出すクラッシュ。慌ててその後を追ったところで、ようやくクラッシュの言っていた匂いというものが分かった。これは確かにカレーを煮込んでいる香りだ。それはいいけれど、あんな離れたところから匂いをかぎつけるだなんて、まるで犬だった。
「ここには人がいるみたいだぜ!物音がしてる!」
「はいはい、分かったからもう走らせないでよ。ただでさえ消耗しているのに……」
「そんなのカレーの香りで吹っ飛んじまったぜ」
「それはあなただけよ……まったく」
クラッシュを追いかけて辿り着いたのは、遠目から判断したものと同じように宿屋の看板を掲げた大きな建物だった。ここはどうやら他所と違って人が住んでいるらしい。客商売という職業だからだろうが、見えるところには洗濯物は干されていなかったが、例えば匂いや物音、排気口から出てくる白い煙は、この建物に人が住んでいることが窺い知れた。
「とにかく、ここに入れてもらって休もうぜ」
「そうね。宿屋だったら寝泊りするところもありそうだし………ごめんください!」
木で出来た重圧な作りの扉を開ける。軋んだ音がしたけれども、それは何もかも木で出来たこの町では何の不自然さもなかった。
扉を開けた先にはやはり木で出来た壁に色取り取りの絵画や布が並べられ、カウンターには植物が飢えられた小さなプランターが置かれていた。床には埃はなく、きちんと手入れはされているようだ。声をかけて室内に入ると、ガタガタと奥から物音を立てて一人の女性が現れた。
出てきた女性は中年に差し掛かる手前といったところか。疲れたような少し陰のある顔つきに、客商売として大丈夫なのか若干不安になったけれども、宿屋がここにしか見当たらなかった以上、ここで休むしかない。
「旅の者なのですがとりあえず今日、ここに宿泊することって出来ますか?予約とかは取ってなかったんですけど……」
「ああ、珍しいことがあるもんだねぇ。ご覧のとおり宿は空いているよ。一晩520ガルドさ」
「分かりました。では二人分でお願いします」
「二人分?連れがいるのかい?」
「ええ、もう一人。……そこにって、あら?」
「お嬢さん一人きりにしか見えないんだけどねぇ」
「ちょっと待ってて下さい!多分外に出てると思いますから」
慌てて外へと出る。護衛として雇っている以上、宿泊費も経費のうちに入るだろうと思って部屋を取ろうとしていたのに、肝心な時にクラッシュが姿を消すのは困る。性別が同じならば一つの部屋で済む話だが、相手が男となるとそうもいかない。倍額の値段を払う以上、その契約時に当の本人がいないのでは話にならなかった。
「ちょっと、クラッシュ!」
「おっ、話は終ったかいレクシア姉さん」
「おっ、じゃないわよ!あなたの分も部屋とるんだから来なさいっ!」
「えー、俺、適当にそこら辺の家に住むー」
「馬鹿言わないの!人様の家でしょう!?」
「空き家だぜ」
「空き家でも道徳的にいけません。きちんとお金を払って宿泊するのがまっとうなやり方よ」
「俺は荒くれ武芸者なんだぜ!」
「そんなの説得力が全くないわ。……ってあっ、こら!逃げないのー!!」
「じゃ、宿屋には姉さんだけでよろしく!俺も汗流したら適当に来るぜー!!」
「あーもー……」
結局、宿屋への宿泊は一人分ですむことになった。
もしかしたら倍額の支払いをわたしがしようとしたのを見かねて、クラッシュはああいう行動に移ったのかもしれない。それでも不法侵入には違いない。説教もどこ吹く風で逃げ去ったクラッシュを思い出して、もしあいつが捕まるようなことになったら、その時は無視してやろうとこっそり心の中で誓った。

「ええと、サインはこれでいいですか?」
「ああ。これで構わないよ」
「それとお聞きしたいことがいくつかあるのですが、構わないでしょうか?」
契約はあくまで、自分が休むためのもの。寧ろ本題はここからだった。
「なんだい?」
「実は今回の砂漠の旅で思った以上に時間がかかってしまい、今日が曜日感覚がおかしくなってしまって……今日は何日でしたっけ?」
「おやおや、そりゃあ大変だったねぇ……」
宿の女将は、砂漠の旅のことを話すとかなり同情的な態度になった。この様子だと、現地民でもこの道を行き来するのは相当に苦労しているのだろう。とにかく、女将は労わりの言葉の後に今日の正確な日付を教えてくれた。
「………え?」
それがわたしを心底驚かせる内容だとは、恐らく何も知らずに。
その日の日付は、わたしが記憶しているものとおよそ半年違い―――…その上、年号に至っては十年先のものだったのだから。
言葉を継げた女将の表情には特に不審な点もなく、咄嗟に走らせた視線の先で、十年も暦が先のカレンダーを見つけてしまった。ドッキリをさせようと思っても、ここまで用意周到にはやらないだろう。何より、客相手にそんなことをするメリットが考えられない。
思わず表情が歪みそうになるのを必死でこらえながら、場所の確認も流れで確認しておく。まずは必要な情報を手元にそろえることが重要だった。
「ああ、ここはカルバレイスのチェリクさ。これでも昔は随分賑わっていたんだけれどねぇ……。神様が光臨してからというもの、皆アイグレッテの方へ移住しちゃって今じゃこんな有様さ」
思わず、目を瞬かせる。
「えと、『神様』……?」
「神って言ったらあれだよ、ほら、フォルトゥナ。あんた参拝客じゃなかったのかい?」
――――とりあえずかなり詳しく情報を集めた方がいいらしい。
さも当然のように口を開く女将を見て、これは前途多難だなぁと思いながらわたしは手帳を開くことにした。



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