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「………カイルたちに付いて行ったのではなかったのか?」
「残念だけど、遠慮させて貰ったわ。とそっくりらしいわたしが陛下にご尊顔叶えば………分かるでしょう?わたし、今はどちらかというとの味方なの」
「そうか。……すまなかったな」
「変なジューダス。あなたが謝る必要なんてどこにもないのに」
こんな時、メイド時代で培った鉄壁の営業スマイルは本当に役に立つ。とにかくいつも通り、冷静に、何も知らないわたしでいるように。
博物館は時間の感覚を狂わせてしまう特殊な磁場を持っているらしい。もうカイルたちが出てくる頃合いだわ。時計を見て早足で城まで向かっていたわたしは、ようやく辿り着いた門の前で白い息を吐く全身黒ずくめの彼と再び出会った時、何も知らないでいる演技をすることを決めていた。
わたしが気が付いたことをジューダスに問い質すことはとても簡単なことだろう。けれどそれを口にしてしまった瞬間、ジューダスはわたしたちから離れて行ってしまう気がした。
そう言えばカイルはスタンさんの息子だったわ。彼がこの旅に同行することを選んだ訳は、これだったのだろうと今なら確信を持てる。
そこまで思いを巡らせてしまうくらいに、わたしはジューダスのことを一方的に知ってしまっていた。そして、秘密を共有しているというこの奇妙な連帯感にも似た何かを壊してしまうことを、考えて、考え抜いたんだけど、どうしても許せそうになかった。
全てを滅茶苦茶に壊して彼を追い詰めたところで、失うものはあっても得るものは少ない。と瓜二つといっても過言ではないわたしと彼の出会いはまるで本当におとぎ話のようで、この運命的とも呼べる因果関係に自ら終止符を打ちたくなかった。そんな風に切望してしまうくらいに――――もう、わたしはジューダスのことを気にかけるようになってしまっていた。
「また、いつでもお越しください。カイルさん!」
「うん、ありがとう!」
どうやら、かなりいいタイミングで戻ってこれたようだ。
(……それにしては、手厚い待遇ね)
このご時世そう厄介事があるとも思えないが、城の兵士も暇ではないでしょうに。体の不自由なお年寄りならともかく、青臭い子供に対して送迎付きとはなかなかないことだろう。
つまりカイルたちが受けた対応とは『そういうモノ』だったということだ。……そしてカイルはそのことに気が付いていない。
案の定、その特別扱いにのぼせあがっているようなしたり顔で、カイルはわたしとジューダスを見つけて元気いっぱい手を振った。
「なぁ、聞いてくれよ、ジューダス、レクシア!」
ノイシュタットの件で少しは懲りたかと思ったのだけれども、どうやらそうではなかったらしい。子犬を思わせるような人懐っこい仕草に思わず苦笑が零れ落ちてしまった。出来の悪い子供を持ったとしたら、おそらくこんな気持ちなのだろう。
「ウッドロウさんはやっぱ、すっごい人だったよ!そこにいるだけで、なんかこう『英雄〜っ!』って感じなんだよ!でも全然威張らないし、気さくな人でさ!オレのこと自分の子供みたいだって!しかもだよ!『彼は親から英雄の素質を確実に受け継いでいるようだからね』だって!英雄王に期待されちゃうなんてさ!タハハ……」
「……やれやれ、思ったとおりだ」
わたしが口を出すよりも早く、ジューダスが呆れたような声音で大きな溜息を吐いた。
「……えっ!?」
「気づかないのか?ウッドロウも、兵士たちもおまえのことなど見てはいない。おまえの後ろにいるスタンとルーティを見ているだけだ。『親から受け継いでいる』というウッドロウの言葉がそれを証明している。………違うか?」
「あ……」
ジューダスの言葉を耳にしたカイルの動きがぴたりと止まる。その唇から漏れ落ちた吐息は擦れていたけれど、今回ばかりは助け船を出してあげることは出来なかった。言い方はともかく、ジューダスの言っていることは正しい。
「リアラ、結局ウッドロウはおまえの求める英雄だったのか?違ったのだろう?でなければ、カイルといっしょに出てくるはずはないからな」
「ええ……」
浮かれて楽しそうだったカイルの後ろで、ずっと顔を伏せていたリアラが力なく微笑む。城から出てきたカイルたちを出迎えたわたしたちは真っ先に気が付いたのに、すぐ隣に立っていたカイルはそんなことにも気付けなかった。
当たり前といえば当たり前の人に対する思いやりを指摘するということは、言われた方も言う方も苦しい。その苦言をここで口にしたジューダスは、いったいどれほどカイルのこと大切に思っているのだろう。カイルはスタンの息子だから?昔の影を重ねて?………どちらにせよ、同じことを言おうとしたわたしはここまで深く突っ込むつもりはなかった。それがなんだか恥ずかしい。
「新しい手がかりも……その顔を見る限り、なさそうだな。それだというのにおまえは一人で浮かれていい気なものだな。ウッドロウにおだてられ、城の兵士たちにちやほやされ、さぞ気分が良かったことだろう」
そうして絞り出すかのように、苦々しい顔をして伝えた言葉は―――――もしかしたらジューダス自身に宛てた言葉だったのかもしれない。
「だが、仲間のことを考えられんやつが英雄などになれはしない………決してな」
その言葉の重みを考えれば考えるほど、無性に胸の奥が締め付けられるような切なさが広がっていく。
憎まれ役を買って出て、その上、自分自身を痛めつけるかのように言葉の茨でがんじがらめになって。その身から血が噴き出していることを分かっていながらも、誰からも理解されず、理解されようとも思わず、リオンはそうして孤独の中で生きてきたの?
「…………くっ!」
「あっ、カイル!?」
悔しさを顔いっぱいに滲ませて走り出したカイルを見送る背中は、ぽつんと白い世界の中で際立って真っ黒で、なんだかとても頼りなく見えた。………もしここにジューダス以外誰もいなかったとしたら、わたしは彼の背中を抱きしめていたかもしれない。
「確かにお前の言うことは正論だよ。だが、それにしたって言い方ってもんがあるだろう!」
―――――もういい。もう、いいから。これ以上、自分で自分を傷つけないで。
大事に思っている人を傷つけられて、黙っていられる人はいないと思う。肩を怒らせて言葉を荒げるロニの主張は、彼の立場を考えればもっともだった。でも、そんな気持ちを持ってここに立っているのは、もうロニだけじゃない。
「………ロニ。それをあなたが言う資格はないわ」
「レクシア……?」
「城に入る時のこと、忘れたとは言わせないわ。少し考えれば普段のあなたなら分かったでしょうに。……いいえ、カイルの保護者を気取るなら考えなければならないことだった。厳しい言い方になるけれど、あなたはスタンさんの息子というのを利用した。その瞬間からここの人たちはカイルをカイルとしてではなく『スタンさんの息子』としてしか見れなくなってしまったのよ」
「そ、それは時間がなくてしかたなく……」
「ロニ。自分のしたことに責任くらい持ちなさい。あなたはとうに成人しているのでしょう?」
「…………」
余計なおせっかいだとしても、誰かが横っ面を叩いてあげないと分からない。ロニのしたことはそれくらいのものだったということを、誰かが思い知らせてやらなければならなかった。そしてそれこそ波風立たずに諭せる立場にいるのは、年長者であるわたしでしかありえない。
「あいつがなりたいのはただの英雄じゃない。スタンのような英雄だ。どんなことがあっても常に仲間のことを思いやる……そんな英雄だ。だとしたらちゃんと言ってやらなくてはいけないんだ………例え、あいつが傷つこうと」
今、気が付いた。ジューダスがスタンさんのことを語る時、それは宿敵を見るような憎々しげなものなんかじゃなくて、誰かを思うようなそんな優しさが滲んだ、それでいて頼りにしているような……なんだか一目置いた親友を語るような瞳をしている。
やっぱりリオンの裏切りにも、理由がある。
噛みしめるようにジューダスが続けた言葉に、わたしは胸が苦しくなると同時に――――確信した。
「………ジューダス。レクシア」
自分のしでかしたことの意味を理解して、呆然とロニが呟く。その隣で、リアラは何かを決意したように顔を上げた。
「……わたし、行ってくる!」
「ええ。いってらっしゃい」
何処に?だなんてそんな不粋な質問はしない。あの様子なら、カイルのことはリアラに任せておけば問題ないだろう。
新しく始まりそうな小さな恋の予感を微笑ましい思いで見送りながら、二人ならきっとうまくいく、そんなことを考えた。
「………俺、頭冷やしてくるわ」
「ええ。思う存分頭冷してきなさい」
「きっついなぁ」
「あら、今更気がついたの?」
「………ホント今更だ。でも惚れ直したぜ、レクシア」
「お世辞として受け取っておくわ」
ああやって、雪の街へと歩いて行く背中が消えるまで見つめる。土地柄、世界でも有数の寒い場所ではあるけれど、この国の人はどの人もあったかい。今は落ち込んでいるみたいだけれど、この街ならきっとロニを厳しくも温かく見守ってくれるだろう。なんだかんだいいながらも、彼はいい兄貴分をやっているのだから。
「ねぇ、ジューダス」
「……何だ」
そうしてこの場所に残されたのは、消去法で語るまでもなくわたしとジューダスの二人きりとなってしまった。
………もしも。ジューダスともしも二人きりになれるのならば、聞いてみたいことが一つだけあった。
「わたしたちもちょっと歩いてみないかしら?」
「……いいだろう」
幸か不幸かジューダスは素直に頷いてくれた。白い仮面の下で、どこか物憂げにも見える瞳が揺れている。もしかしたらジューダスはわたしが尋ねてくることを予感していたのかもしれない。ふと、吸い込まれてしまいそうなくらい澄んだアメジスト色の瞳を見て、そう思った。
(……どうせ隠すならフルマスクにすればバレなかったのに)
ドラゴン系の骨の仮面も、フルマスクも、顔を覆う面積こそ違えど、異様さという点に置いてはそう変わらない。
あんなものを被って歩いていれば、確かに道行く人は視線を逸らすだろうけれど……いや、それだけで効果は絶大だったのだろう。本来の思惑とは違う意味で効果を発揮したスカスカの仮面の意味を今更考えてみて、思わず噴き出してしまう。ジューダスはこれを狙ってやっていたとしたらなかなか偉い。単に趣味が悪いだけの話かもしれないけれど。
「……なんだ。突然笑い出して」
「ううん、気にしないで。つい思い出し笑いしちゃって」
「変な奴だ」
「あら、酷い」
こんな何気ないやり取りを、もリオンと交したのだろうか。
笑って、指摘されて、ちょっと困って。……話に聞く通りの子だとしたら、多分、わたしみたいに適当にあしらうことは出来なかったと思う。きっとリオンの一挙一動にいちいち面白くなるくらい反応して、喜んだり哀しんだり、たくさんの表情を見せたのだろう。16年という閃光のように走りすぎた時の中で、彼と過ごした時間は何よりも表情豊かな瞬間だったのかもしれない。
一度も遭った事はないけれど、幾人もの人の記憶の中から、彼女の遺した想いの端から、に対するわたしの想像は気まぐれな風のように流れて行く。
想像の中のは、いつも締まりのないふにゃんとした笑みを浮かべていた。
「ねぇ、ジューダス。一つだけいい?」
深々と積もる雪に覆われた街を、ゆっくりと一望する。行く当てもなくぶらぶらと歩く道がてら、わたしはやっと本題を切り出すことにした。
「――――裏切り者の=を、あなたから見た意見を言って欲しいわ」
その問いは、奇しくも彼が一番初めにわたしに問いかけたことと全く同じ内容だった。
でも、これこそがわたしの本当に知りたいこと。彼自身の謎とか、との関係とかよりも、彼がをどう思っていたのかを知りたい。彼女のひたむき過ぎるくらいまっすぐな思いに彼はどう応えていたのか、わたしは知りたい。
「本当にそれだけでいいのか?……そんなことだけで?」
「余計なことを聞かれたら困るのは貴方でしょうに、変なジューダス。なんなら聞いた方がいいのかしら?」
「……結構だ」
「素直でよろしい」
思わず笑みを零すと、少し恨めしげなジューダスの視線とかち合った。
どうしよう。これ、やみつきになっちゃうかも。
思いもよらなかった新しい自分を発見して、なおのことおかしくなる。ジューダスに関わってからというもの、自分でさえも知らなかった一面に何度も気が付かされ続けている。
「僕から見た=について、だな」
何かを噛み締めるかのように、ジューダスが反芻する。その表情が僅かに苦しそうに歪んだのを目の当たりにして、少しだけ胸が痛んだような気がした。
「もうこれだけ見せられたんだもの。今さら誤魔化したりするのはなしよ」
「僕はそこまで信用がないか。……まあ、無理もないがな」
「あら、わたしはちゃんと信用してるつもりよ?今のは念を押しただけ」
「……よく言う」
「よく言われるわ」
苦悩よりも苦笑するジューダスを見る方がずっといい。
表情を緩めたジューダスは、そのまま降りしきる雪の結晶を手のひらで捕らえてみせた。そうして黒いマントを翻して、じっと灰色の空を見上げる。
空を見上げて彼は一体何を想っているのだろう。
彼にとって痛みを伴う問いをしたことは分かっている。でも、それでもわたしは=という一人の女のことを知りたかった。この衝動はもう好奇心とかそういう生ぬるいものじゃない。瓜二つの顔を持つわたしが彼女のことを知ることは、きっと運命だった。
ばさり、とマントが風を切る音がした。
「――――まず、裏切り者の=というのが気に入らないな」
その言葉が口切になった。
そうしてジューダスは、頑なに口を割ろうとしなかった自分の秘密の一端をとつとつと語り始めたのだから。
「世界を裏切るとか、そんな大層なことを背負いきれるほど冷酷になれない女だった。いつもへらへらと笑ってて、くだらないことばかりしていて………誰かのためによく泣いた。そういう奴だったんだよ、は」
手のひらの中ですっかり溶けてしまった雪の結晶をから視線を放さないジューダスの横顔は、どこか寂しげだった。
「あいつがどうして死んだのか、裏切り者と呼ばれるようになったのか、僕には分からない。―――だけど、これだけは言える」
ジューダスがわたしを見た。……違う、『わたし』じゃない。リオンが見ているのは『わたし』と瓜二つの顔を持つ、あの娘のことだわ。
「は史実上では確かに裏切ったのかもしれない。けれどきっと、それには意味があったはずなんだ」
揺るぎのない表情でわたしを見るジューダスの瞳は、いつものように凛と澄んでいて。
届かない。………どこまで行ってもわたしはの影を追うだけで、切ないくらいに胸を痛めても、あの娘以上にはなれないことを思い知らされてしまう。
それは哀しいくらい悔しいことだったけれども、どこかでそれを納得している自分がいることも確かだった。
「………ありがとう」
ジューダスがこの返答をしたことで、わたしの中にあったリオン説はより確かなことになった。けれど、今はもうそんなことは細事だった。リオンがのことを信じていたということだけでも分かって、なんだか救われるような思いだったのだから。
もきっとリオンを信じていた。リオンが思っていたよりもずっと、ずっと。―――それは、世界を裏切るほどの恋慕。
手元にある情報だけでのことを判断すれば、彼女は盲目的で狂おしいほどの情愛を抱えた故に傾げてしまった女性になっていしまう。そしてそれは、ジューダスやノイシュタットで出会った人たちの証言からは当てはまらない。ならば、の死には『リオン死亡』の情報による四英雄への逆恨みという線はおのずと消え、新しい疑問が浮かんでくる。
「何の因果かそっくりの顔を持ってしまったわけだけど、ジューダスにそう言って貰えて良かった。話してくれて本当にありがとう」
「………ああ。だが、この件は……」
「勿論誰に言うつもりもないわ。わたしの胸にしまっておくべきことですから」
「恩にきる」
の死の真相にたどり着くためには、本当はまだまだ情報が足りない。けれども、これ以上ジューダスから話を聞き出すのはルール違反になってしまう。せっかく築き上げた信頼をこんなところで崩してしまうほど短慮なつもりもなかった。
(……別にのことを調べなきゃいけない義理があるわけでもないのだけれど)
かつて英雄たちとリオンとは、このハイデルベルグがとある司祭に乗っ取られた時、現王であるウッドロウ王に協力して戦いに身を投じ、国を救ったという。そしてそれこそが神の目を巡る騒乱の直前に合った事件だった。18年前、雪の降りしきる灰色の世界にはすべてのキッカケが揃っていたはずなのだ。
わたしがそんなことを調べる必要も義理もない。けれど、わたしはもう知ってしまった。関わってしまった。ここから先の選択肢を決めるのもまた、わたしだ。
(知りたい)
18年前、何が起こったのかを。
(わたしは、知りたい)
まだこの場所では笑い合っていたはずの人たちの運命が、どうして拗れてしまったのかを。
そしてそれこそが、と同じ顔を持って生まれてきたわたしが探るべきことのような気がした。
「ねぇ、ジューダス」
白いヴェールが何もかも覆い隠してしまう世界は、まっさらでとても美しい。
「雪を見ていると……ワクワクしてこない?」
「は?」
「目の前が真っ白で、何にも見えてこなくって。それがどこか心細くもあるけれど、どこかで期待している自分もいるの。例えどんな困難が待ち構えていようと、この雪の上にたくさん自分の足跡をつけて、いつかはわたしが本当に行きたいと心の奥底で思っている場所に辿り着けるような気がする」
「………」
「あら、深読みする必要なんてないわ。そのまま解釈してもらって結構よ」
「……ずいぶん能天気なことを言うな」
「そう言ってみたかったのよ」
――――そう、わたしはワクワクしている。
わたしが探ろうとしている真実はきっととても血なまぐさくて、哀しい物語なんだろう。けれど、顔が似ているだけという一見些細な結びつきから始まったことでも、わたしはもうこのラプソディの音色に取り込まれ始めている。どんな物語がそこに広がっているのか、期待し始めている。
不謹慎なのは分かっていた。それでも、きっと歴史学者が歴史を好む動悸もきっとこれに通ずる何かがあるからだと思う……ということにしたい。
「………鐘…?」
ふ、とジューダスが城の方角へ視線を向けた。
ハイデルベルグ城から僅かな距離に鐘塔が建っているから、きっとそれの音だろう。定刻を知らす鐘としても市民から愛着を持たれている、この街の名物の一つだ。
ジューダスの動きにつられるようにして、わたしも鐘塔の方角へ視線を向けて……そこで信じられないものを見た。
「あれは……飛行竜…ッ!!?」
「え、うそ……あのまま行ったら……」
「レクシアッ!」
大地を揺るがすような轟音と震動がいっぺんに頭の中に押し寄せてきて、思わず身をすくませたら、急に温かい何かに包まれるような感触がした。
「……え………あ…ぅ……?」
「怪我はないか?」
「え…ええ……。大丈夫」
びっくりした。
多分、振動の余波から守るためにしてくれたんだと思う。それでも気になっている相手に唐突に抱きしめられたら、動揺してしまうのは仕方のないことだと思いたい。……本当はもうちょっとくらい甘い感傷に浸りたい気はしたんだけど。
「………城を狙っての襲撃…」
城へ向かって飛翔していた飛行竜は、一瞬のうちに見るも無残な姿になってしまった鐘塔にその半身を埋めていた。つまり、飛行竜に乗ってやってきた奴らは、半ば心中のつもりでやってきたテロリスト達ということ。
突然訪れた事態にパニックになった人々の悲鳴や泣き声、混乱に呻く声が街の中に広がり始めていた。
「とにかくカイルたちと合流だ」
「……ええ」
やはりと言うか、真っ先に事態を把握したのはジューダスの方だった。
数コンマ遅れでわたしの方も理解をする。城が危ない――――つまりこれは、ハイデルベルグの危機ということだった。
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