例えば知らない振りをしているとか、記憶を失って過去のことを思い出せないだとか、何かのショックで違う自分を演出することになったとか、レクシアについてはいくつかの仮説を立てていた。認めたくはなかったが、それだけ僕はレクシアの中にの面影を求めていたのだろう。雰囲気はまったくと言っていいほど異なるものだったが、レクシアは本当にに似ていたから。レクシアの笑顔を見る度に、否が応でも思い出すから。今にも崩れ落ちてしまいそうな泣き顔で、縋りつくかのような瞳で、そうして遠ざかっていったあいつとの最後の別れを。

だから、この仮説がこんなにも早く確かめる機会が与えられるだなんて思わなかった。




























Tales of destiny and 2 dream novel
28 古びた家






「な、なんだ!?いきなり霧が……」
「どうやら『白雲の尾根』に入ったようだな」
「……はくうんの……おね?」
「このあたりはな、18年前の災厄の時に、ベルクランとの攻撃を受けて、地形がガラッと変わっちまったんだ。地形が変われば気候も変わる。その結果がこの、年中出てるふか〜い霧なんだよ。『白雲の尾根』なんて名前がついたのも、その霧のせいさ」
「へぇ〜っ!」
「すっごい、ロニ!物知りなのね」
「いやぁ、なに。神団の資料室に、美人の司書がいてな。なんとかお近づきになりたくて、必死こいて丸暗記したんだよ。まさか、こんなところで役に立つとはなぁ!」
「……」
「カイル、ノイシュタットは東南の方角だ」
「……わかった。じゃ、行こうか、みんな」
「お、おいおい!なんでそんな顔するんだよ、おまえら!」
ロニのナンパ失敗談にカイルは呆れ、リアラは落胆し、僕は無視する。四人で旅をするようになってからのスタイルには変化がなかったが、今日から加わったもう一人の同行者の反応は僕たちとは違うものだった。
「くすくす。ロニさんって面白い方なんですね」
「レクシア、あんまりそういうことをロニに言うと……」
「そんなことを言ってくれるのはレクシアだけ……なんて優しいんだ!やっぱり今度僕と二人っきりでゆっくりお茶でも「あーレクシア、ロニのこれは病気だから」
「ええと……やっぱり面白い方なんですね」
この様子だとロニがあしらわれる様になるのも時間の問題だろう。止まりそうにないロニの暴走に苦笑を漏らすレクシアから近い未来が簡単に予想出来た。
「そう言えばレクシアってずっと敬語だけど、年齢って多分俺より上だよね?」
「カイル〜。女性に年を聞くなんてタブーだぜ」
「え!そ、そうだったの!?ごめん、レクシア」
「ううん、いいのよ。わたしは今年で25よ」
「嘘!レクシアって私よりも大分上だったの!?見えないわ!!」
「……嘘ってリアラさん、わたしの事何歳だと思ってたんですか……」
「ごめんなさい。レクシアって仕草は大人っぽいけど童顔だったのね。てっきりあと一つか二つくらい上だと思っていたわ……」
「レクシアさんがまさか俺より2つも上とは……」
「ロニさんまで!」
確かにレクシアが25という数字を口にしたことは、僕にとってもかなり意外なことだった。リアラの言う通り仕草は大人っぽいと見えなくもないが、その分顔の造りは年齢不相応で少し幼い。童顔と言ってしまえばそれまでかもしれないが、身近にマリアンを見ていた僕からすれば僅かに違和感が残った。マリアンも彼女と同じ年だったはずだ。
「じゃあわたしの方こそレクシアに失礼だったんじゃないかしら?……ええと、レクシアさんの方がいいかしら……?」
「ううん、そのままの方が嬉しいわ。わたしったらついクセで人をさん付けしちゃって……」
「良かった。じゃあそのままでいいかしら?レクシアもわたし達の方が年下なんだから普通にリアラって呼んでくれた方が嬉しいわ!」
「分かったわ。……そうね、リアラ」
「あーずるい!リアラだけ!オレもカイル!カイルって呼んでよ!」
「馬鹿言うなカイル!抜け駆けはなしだぞ。俺だって呼び捨てにー!!」
「くすくす。はい、カイル、ロニ」
「……僕もジューダスでいい」
「はい」
笑ったレクシアの表情が――――またとだぶって見えた。

知識としては知っていたが、実際に目の当たりにする霧の深さは想像以上のものだった。一寸先は闇ならぬ霧といったところか。視界全体が白色に覆われ、例え土地勘があったとしてもこれでは何が何だか分からないだろう。よく一人でこの霧を抜けてきたものだと、今更ながらにレクシアを感心した。同時に、やはり戦えないと言うレクシアのことが分からなくなる。これではモンスターの姿を確認することもろくに出来やしまい。
「来たぞッ!」
カイルの号令に、瞬時に構えを取る。
霧を裂いて現れたモンスターはルーンビートルだった。硬い甲羅を纏った小柄なモンスターで、元は爬虫類系の害のない生物だったがレンズの影響で異常進化したらしい。
「いきます!バーンストライク!!」
詠唱によって晶力の高まりが最高潮に達した時、技は完成する。パーティ内で最も晶力のコントロールが上手いリアラの放つ業火の炎がルーンビートルを焼いた。
「次、任せろ!割破爆走撃ィ!!」
前衛でカイルと組んでいたロニが砂塵を撒き散らしながら突撃したところで、雑魚は乾いた音と共にレンズを残して消えた。生態系や戦い方こそ大きく変化していたが、こればかりは18年前と変わらない光景だ。
「ロニにおいしい所とられちゃったな」
「へへ、そう思うんだったらカイルも頑張ることだな」
「くっそ〜!!負けないぞ!」
―――あいつらは知らないだろう。今、当たり前のように使われている『晶術』を誰が開発し、誰が簡略化して一般人にも使えるよう改良したのかを。
両手で抱えきれないほどのレポートを前に、照れくさそうに笑ったあいつが浮かんでは消える。王から最も偉大な賞を賜るはずだった。けれど、18年後の書物では違う人間の名前が当たり前のようにそこに存在している。裏切り者は絶対悪。そうして未来も夢も絆さえも失ってしまった人間から、功績さえも奪い取ったというのか。
「どうかしたの?ジューダス」
「いや、何でもない」
覗き込むようにして顔を寄せたレクシアから距離をとるようにして背を向けた。近くでその顔を見るにはあまりにも思い出が多すぎる。
「いくぞ」
「はい……あ!」
「どうした?」
「あそこに人影が見えるの!この霧の中、あんなところに一人でいるなんて危ないわ!」
何が彼女を駆り立てたのかは分からない。絶対にはぐれるなとあらかじめ念を押していたはずなのに、わずかな距離に気が緩んだのだろう。ちょっと見て来るわ!そう声だけ残して、レクシアは霧の向こう側へ駆け出した。
「おい!こっちへ戻れ、レクシアが抜けた!」
霧の中での単独行動は命取り―――…あいつこそそれが分かっているはずだろう!頭の回転は悪くないだろうと見込んでいただけに、レクシアの暴挙に対応し切れなかった。
「ええ!レクシアが!?」
「つべこべ言うな!見失う前に追いかけるぞ!」
この霧の中だ。見失ってしまえば合流できる可能性は極端に小さくなる。これがまだ戦う術のある人間ならともかく、よりにもよってまったく戦えないあいつときた。
もう少し慎重に行動しろと言い聞かせたいところだったが、先を走るレクシアの影は一向に留まる気配はみられない。
「……あ!」
不毛な追いかけっこが続くのかと思いきや、それは唐突に終わりを見せた。短い声を上げて、レクシアの体が硬直する。
「人影……ってあれはマンドレイクじゃねぇか!」
じりじりとレクシアと対峙している影にロニが声を上げる。
視線を向けなくても理解した。あの馬鹿が!
地中にいる分には害のないはずだった希少種の植物。レンズを取り込んでしまったばかりに人間に擬態をすることを覚え、愛くるしい姿で旅人を惑わすれっきとしたモンスターだ。そんなものにまんまと引っかかるとは!
「レクシア!」
マンドレイクがレクシアにその根を伸ばす。怯えたようにレクシアが身を竦ませるのが見えた。
ここからでは届かない―――!そう判断したと同時に、咄嗟にとれた行動は一つだった。
「………ぁ…っ……」
なまじ愛くるしい容姿に擬態していたから余計に衝撃が大きかったかもしれない。剣で肉体を串刺しにされた少女の姿を目の前に突きつけられるのは、少々刺激的過ぎる光景だろう。だが、レクシアが安易に走り出さなければこんなものを見る羽目にならなかったのは間違いないことなので、自業自得といってしまえばそれまでだが。
「大丈夫!?レクシア!」
串刺しになったマンドレイクを瞬き一つせずに見つめ続けるレクシアに真っ先に駆け寄ったのはリアラだった。その声が引き金になったのか、がくりと小柄な体から力が抜け落ちる。レクシアはか細く震えていた。
「―――だから言っただろう。この霧の中で単独行動は決してするな、と」
「………っ!」
「ましてやお前は戦えないことを自分でも知っていたはずだ。自分の身すら守ることも出来ない奴が勝手をした結果がこれか?」
「……そ、それは……」
「今回はたまたま間に合ったからいい。確かに僕はお前に来ないかと誘った立場だが、あくまでそれは僕たちと合わせるという最低条件があってこその話だ」
「もういいじゃねぇか、ジューダス。それはレクシアだってよく分かったはずだ。ここで追い詰める必要はないだろう?」
「それは結果論だ。あと少し僕が剣を投げるのが遅ければ、レクシアはどうなっていたか分からない。その現実を誤魔化してどうする」
「だからジューダス!おまえの言い方をもうちょっと変えろって言ってるんだよ!!」
小さく身を縮ませて、カタカタと震えるレクシアを前にロニが声を荒げる。
「そうやって騎士ごっこをしたければ勝手にするがいい。だが、それがこいつのためになるとは思わんがな」
「んだと……!!」
「もう二人ともやめにしろよ!ここでケンカしても仕方ないだろ!」
「カイル……」
「フン、肝に銘じておけ」
「ジューダスってば!」
……正直、落胆していた。
戦えないとは確かに聞いていたし、理解していたつもりでもいた。けれどどうしてもあいつの影がちらつく。あのシチュエーション、だったらまず間違いなくマンドレイクを殴り飛ばしていただろう。いや、そもそもモンスターの種族に関してはある程度の知識を備えていた。迷子になることはあっても、まんまとモンスターにはめられるような失態を犯すことはなかっただろう。
あくまでレクシアという存在をに仕立て上げたいのか。過ごす時間が増えれば増えるほど、大きくなってゆく違和感を無理矢理こじつけようとしている自分に嫌気が差す。初めて見た時はとしか見ることが出来なかった。……けれど、こうした挙動一つ一つがあいつとの違いを突きつけてゆく。とレクシアは似ているようで―――似ていない。
うつむいたままとぼとぼと歩くレクシアの姿を尻目で確認をしながら地図を広げる。がむしゃらに走ったせいで僅かに残っていた方向感覚すらも失ってしまった。すんだことを蒸し返しても仕方がないが、こればかりはレクシアが恨めしい。大体の位置は絞り込めるが、それもかなり大雑把なものだ。今日宿泊する予定だった山小屋までの距離感が狂ったのはかなり痛い。
「とにかく日暮れまであまり時間がない。それまでに山小屋に着かなければ、最悪野宿も考えておけ」
「分かってるからいちいち口に出すなよ」
「……ごめんなさい。わたしが先走ってしまったばっかりに……」
「いいってレクシア!それにオレ、野宿も結構好きだよ!だってなんか旅してる〜って感じがすごくするじゃん!」
「フフ、カイルにかかれば何でもピクニックみたいなものになっちゃうのね」
「へへ……だってなんかこういうのってワクワクしない?」
リアラに褒められて照れくさそうに頭をかくカイルの表情は……ああ、こんなところは父親似なんだと思ってしまう。邪気のないまっさらな笑顔はどうにも毒気を抜かれてしまう。
「ほんっとにおまえには叶わないよ」
「わわ、ロニってば!頭ぐちゃぐちゃにするなよ〜っ!」
「ハリネズミ頭のクセに今更何言ってやがる!」
「も〜!!」
いつものカイルとロニのじゃれあいが始まったところで、レクシアがようやく強張らせていた表情を和らげた。スタンに比べると輪にかけて馬鹿で無鉄砲のカイルだが、こういうところは本当に父親に良く似ている。スタンとカイル。とレクシア。顔が似ているということは共通しているのに、その関係性については受け取り方がまったく違う二人。一度は死んだ身分のはずなのに、奇妙な因果関係に結ばれてこうして旅をすることになるとは一体誰が予想しただろうか。
小さく苦笑を漏らして、もう一度地図に視線を滑らせる。思い出に浸るよりも先に、寝床を考えることの方が今は優先だろう。
「………あの」
そう考えていた矢先のことだった。控えめな声で、おずおずと申し訳なさそうにレクシアが声を上げた。
「さっき走ってる時にちらっと見えたんだけど……」
「要点をまとめてさっさと言え」
「ごめんなさい。……その、人気のないログハウスみたいなのがあっちの方で見えたってことを言いたくて」
「……ログハウス、だと?」
「ちらりとしか見えなかったから、見間違いかもしれないけれど……」
「ナイスレクシア!どっちにせよ野宿になるんだったら、一度そのログハウスを見てみる価値はあると思うぜ」
「もし人がいたらお願い出来るし、無人だったら一晩の間だけ借りればいいもの。せっかくだから行ってみましょうよ」
「決まりだな。行ってみようぜ」
「……構わないだろう」
その話が本当なら、硬い地面の上で寝ずの番をするよりはずっとマシな夜になるだろう。レクシアが指し示す通りに先ほど駆け抜けた道を少し戻り、脇道へと逸れる。先ほどはレクシアを追うことに夢中で気が付かなかったが、果たしてそこには彼女の言う通りに人気のないログハウスが一軒ぽつんと草木に囲まれて佇んでいた。
「今日中に山小屋まで辿り着けるか怪しいところだったんだ。逆にここを見つけたのはラッキーなんじゃないか?」
これ見よがしに僕に視線をやりながらロニが大口を開ける。……フン、その女の前で見栄を張ってどうする。
「とにかく、ここに住んでいる人がいるかどうか確かめようよ」
カイルはそう言ったが、この家に人が住んでいたのは何年……いや、下手をすれば何十年も前のことだったというのは一目瞭然だった。
元は小奇麗な庭だったのだろう。いくつものプランターがそこかしこには存在していたが、そこから生える草木は自由気ままに太り、もしくは枯れ、庭は見るも無残な荒れ放題になっていた。中途半端な盛土がより一層庭を不恰好なものとなっている。おまけに家自体も手入れがされておらず、雨風に吹き晒されたためか随分と色が落ちていた。材質が木ということもあってか、防腐剤が剥げ落ちて一部は腐っていそうだ。まさに草木に埋もれるように佇むその家は、何もかもに置いてけぼりにされたまま何年間もそこに在ったかのようにひっそりとした佇まいを見せていた。
「ごめんくださーい!」
それでも律儀に声だけはかけるカイルの真面目さがやはり父親のものとダブる。
「……いないみたいだな。仕方ない。今晩はここを借りようぜ」
奇しくもレクシアのおかげで一晩の宿は決まったわけだった。

「すごい埃!」
錆びきっていた鍵は少々手荒いが破壊して、僕たちは玄関から足を踏み入れた。そうしてまっさきに声を上げのはリアラだ。その言葉通り一歩家の中に足を踏み入れれば、もうもうと埃が立ち上った。
「もう何年もここには人が住んでいないんだな」
「……18年前の騒乱で家を捨てたか亡くなったかのどちらなのかもな」
「え!?」
「おおおおおい!ってことはまさかこの家に……そそそ…その、死体、とか……ないだろうな、な!」
「分からん」
「ぎゃああああああああ!!!俺やっぱり外の空気吸いに行って来るわ!いや、そうした方がいいに違いない!!」
「ちょっとロニ、せっかく入ったのにそんなこと言うなって!」
「でも死体があるなんて考えたら……怖いわ」
「………死んでしまっているのなら怖いも何もないだろう」
むしろ生者の方が何をしでかすか分からない分、厄介なものであるとは思うが。死体は気味が悪い。その気持ちは確かに分からないでもなかったが、一度死んでいるはずの自分からすれば、死は意外に身近な存在だ。死者蘇生してしまった自分が、今更死体程度に驚きを示しても仕方が無い。
「……でも」
「ならば確認すればいい」
踏ん切りのつかない様子のリアラとロニを置いてさっさと部屋の奥へ足を踏み入れることにした。ようは死体がないか確認してしまえばすむ話だ。そんなものはとっととすましてしまうに限る。
「待ってください!」
「……?」
「わたしも行きます」
そう言って小走りに寄ってきたのはレクシアだった。
先ほどの失態を気にしているのだろう。顔色は青ざめていたが、妙な決意を湛えた様子でやってきた。ここで何かしなければ、いよいよ足でまといになってしまうと思っているのかもしれない。
「別に僕一人でも構わない」
「いいえ、わたしも行きます。行かせてください」
明らかに無理をしている。けれど、ただまっすぐに見つめ続ける視線が意志の固さを現していた。その瞳が―――あいつとダブる。
「………勝手にしろ」
どうせ部屋を見て回るだけなのだ。一人くらい同行者が増えたところで問題はなかった。
相変わらず玄関で騒いでいるロニの面倒をカイルに任せて、手始めに目の前にあったドアを開いた。
「ここは……」
「リビング・ダイニング・キッチンが一体化しているようだな。この程度の規模の家だ。部屋数もそう多くまい」
「ここは洗面室ね。水桶があるわ。……この家の裏手に井戸があるのかも」
「恐らくそうだろう。トイレも外だな。こんな辺鄙な山奥に下水が完備されているわけがないからな」
そうして目に入った扉を片っ端から開けていった。
一歩、また一歩と足を踏み出す度、久方ぶりの来訪者を喜ぶかのように埃が舞い上がった。それだけ永い時の中でこの場所は忘れ去られていたのだろう。きっと地図上のどこにも残らずに。
「個室は……なにもなし、と」
こじんまりとした部屋は幅広のベッドにチェスト、それから細長い本棚だけでもういっぱいだった。
「あとはもう一つの部屋だけね」
扉を開けることにもう抵抗はほとんどないらしい。案外肝が据わっていたらしいレクシアの態度の変わりっぷりには驚嘆する他ない。……いや、いつの時代でも土壇場で図太い神経を発揮するのは女のほうだったか。ふと頭に浮かんだ懐かしい面子になんとも言えない気持ちになった。
それらを振り払うかのように小さく首を振った。ここで過去を振り返っても仕方がない、とっとと確認を終わらせてしまおう。先に出たレクシアを追う形で部屋を出ようとしたところで、ふとチェストに乗っていた写真立てに目が向いた。
「………?」
それは何の変哲もない一組の親子の写真だった。
母親と娘。二人が穏やかな表情でこちらに向かって微笑んでいる。
―――銀の髪の美しい娘と、くすんだ茶色の髪の平凡な顔つきの母親。二人の顔つきは驚くほど似ていなかった・・・・・・・
一見しただけでそれと分かる関係ではない写真だったが、僕には分かってしまった。この二人が親子関係にあるということ。そしてこの幼いながらも整った顔立ちの娘の名前は――――…
「…………………まさか、ここは………?」
誰にも忘れ去られた寂しい小屋は、歴史によってその人格すらも歪められた哀しい少女のものだったのだ。



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09.4.24執筆
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