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18年ぶりに訪れたオベロン社の坑道は、廃坑という名に相応しくすっかり寂れ切っていた。
オベロン社は元々、ベルクラント復活のためにあつらえた資金調達用の会社だった。おそらく全て計算ずくでヒューゴはやっていたのだろう。レンズ商品という消費型エネルギーを取り扱う新たな巨大市場の確立は、莫大な利益を上げると同時に民衆の生活スタイルを画期的なまでに変えてしまった。そんな会社の総帥が自らの手で会社を切り落とし、世界を恐慌へ陥れたのならばその影響力は計り知れない。
当時はオベロン社に入社さえしてしまえば将来を約束されたようなものだ、とまで言われていたブランド会社も全てが一転してしまった。何倍もの倍率を潜り抜けて入社をした選りすぐりのエリート達は、オベロン社に所属していたがために怒りをぶつける対象を探す民衆の格好のはけ口にされてしまったというわけだ。
18年経った今でもそんな話が耳に届くくらいなのだから、当時の社員の風当たりは相当酷かったのだろう。
結局ヒューゴほぼ一人の手腕で成り立っていた大会社は、残された無能な役員たち(おそらくこの選別すらもヒューゴの計算ずくだったのだろう)の手によって倒産という虚しい一途を辿ったというわけだった。
そんな経緯もあって18年前は開発の要所として目をつけられていた鉱山も、今や道具が据え置かれたまま廃坑と化している。
「ここが……あのオベロン社廃坑……」
作業途中ですべてを放り投げ出しました、と言わんばかりの坑道内部を物珍しそうに眺めながらレクシアが呟く。
「………」
「んっ?どうしたの?ジューダス」
「なんでもない……先を急ごう……」
外殻の落下によってどこもかしこも姿を変えてしまっていた未来の風景。そんな中、記憶のものと何一つ変わらない景色は妙に感慨深かった。
「土砂で道が埋まってる。これをどかさないと先に進めないぞ」
しんがりを努めていたカイルが、困ったように頭をかきながら戻ってきた。どうやら道が塞がっているらしい。実際にカイルが指したところまで進むと、なるほど、地震か何かで崩れてしまったのだろう。道の先にこんもりとした土砂の山が出来ていた。
「困ったわね……」
ここまでは普通の作業部屋しか通らなかった。
つまりそのまま素直に判断すれば、男が言っていた『宝』のある部屋はもっと奥にあるということなのだろう。実際、記憶の中にある例の『宝の在り処』も場所的に一致する。
「爆弾を使って土砂を吹き飛ばすしかないな」
「爆弾?おいおい、そんなもんいったいどこにあるって……」
「昔、坑道の発破に使っていた。探せばあるはずだ。着火は……そうだな、ソーサラーリングを使えばいい」
「……ジューダス?」
怪訝そうにレクシアが僕を見ていた。その疑惑の混じった声音で、ようやく僕は自分の失態に気が付く。18年以上放置されていた場所になぜ爆弾があると知っているのか、少し考えれば当たり前のように突き当たる疑問にレクシアは着いていたのだ。……そして、ロニとリアラも。
「そう、資料で見たんだ。さっさと行くぞ。カイルが先に行ってしまってる」
かなり苦しい言い訳だとということは自覚していたが、それ以外咄嗟に思いつかなかったのだから仕方がない。逃げるようにマントを翻して先に進む気まずさを、口を閉ざして耐えるしかなかった。
結局僕は、どこへ行っても裏切り者のリオン=マグナスなのだ。
「ねぇ、宝物ってなんだと思う?やっぱり、伝説の剣とかなのかなぁ?」
「ソーディアンみたいなモンか?そんなつまんねーよ。もっとこう……そうだな。誰も見たことのないようなものすご〜い宝物がいいって……たとえば…美女とか、美女とか、美女とか……」
「それってロニが欲しいものじゃない……だったらわたしは英雄がいいな!」
「なんだよ、リアラ〜。英雄なら、もうここにいるじゃん」
「くすくす。リアラったら。じゃあわたしは素敵な人が入ってたらいいわね」
「えー!?レクシアが思う素敵な人ってどんな人??もっと具体的に話して!」
「……ここは俺が宝箱に入るべきか……くそっ……愛の試練なのか……!!?」
「ロニ、無理に入ろうとしなくていいから」
「おまえたちの思考は理解できんな。人間が宝箱に入ってるわけないだろう」
「やあね、ジューダス。冗談に決まってるじゃない♪ねぇ、レクシア、ロニ」
「……ふふ、ちょっと冗談が過ぎたかしら?」
「え?……冗談なの?」
少し手間がかかったが首尾よく爆弾を手にいれ、土砂で塞がっていた道の奥へと進む。
開発の要所としてオベロン社が力を入れていたこともあってか坑道内は堅固な作りで、爆弾の一つや二つの振動ではびくともしなかった。それでも土砂が積もっていたという事実は、やはり18年前の騒乱と関係があるのだろう。結局、変わらないものなんて何一つないのだ。物も、人も、想いもすべて。
まるで人目に付かないようにひっそりと埋もれていた部屋の入口を、最後の爆弾で吹き飛ばす。その部屋こそ、目的の『宝』がある部屋だった。
「これが……宝なの?いったい、なんなんだろ?」
部屋の中にこれ見よがしに落ちていた小ぶりな箱をカイルが手に取る。
恐らくカイルは、もっと立派な祭壇に宝箱が安置されているとかそんなイメージを持っていたのだろう。見るからに落胆したように、無造作に転がっていた小箱を見つめている。実際、その箱の中身はカイルの期待に沿うような大層な『宝』ではない。
「この鉱山だけで採掘できる特殊な鉱石だ。状態を安定させるため、それに入ってる」
「特殊な鉱石?それじゃ、ただの石っころなの?」
確かにこの『宝』は燦然と輝く黄金色でも、口をきく剣でも何でもない。それでもこの石っころは……
「……おまえたちベルクラントは知っているな」
「ああ、知ってるさ。天空都市ダイクロフトにあったっていう、兵器のことだろ?地殻にエネルギーをブチこんで破壊するっていう、とんでもねえシロモノだ」
「その石は、ベルクラントに使われていたレンズの力を増幅させる石だ」
「え!?それじゃあこれさえあれば……」
「そうだ、もう一度ベルクラントが作れる。街ひとつ軽く吹き飛ばせるほどの兵器がまた作れてしまうんだ。……とはいえ、現実にはムリだがな。この石をどうやって使えばいいか、それが誰にも分からんのだ。本来ならばオベロン社が解析をすすめるはずだったが……なくなってしまったからな」
「うへ、お宝ってこんな物騒なもんかよ。まったく、オベロン社ってやつもロクなことしやがらねぇなぁ」
そうロニが毒突いたところで、リアラが何かに気が付いたように声を上げた。
「……ねぇ、あっち、明るくない?」
「確かに……まだ何かあるのか!?」
―――そして、僕たちはイレーヌの遺した本物の『宝』を知ることになる。
「キレイ……!」
「……素敵」
リアラとレクシアが目を細めて感嘆のため息を漏らした。確かにそこは、彼女たちが思わずうっとりと吐息を漏らしてしまうほどに美しい場所だった。
薄暗い坑道の中で揺れる、人工的な光に慣れていたということもある。けれど、天から降り注ぐこの大地への恩恵は間違いなく―――…
「岩の切れ目から太陽の光が差し込んでいるのか。なるほど、どうりで明るいわけだ」
「これは…!……ふふふっははははっ!」
「ジューダス!?」
1000年前、シャル達はこの光を巡って争った。18年前、スタンたちはこの光を取り戻すために戦った。
「……なんて皮肉な。こんなものがあるとはな」
降り注ぐ太陽の光の中、固い地面の上で懸命に命を咲かす植物たち。その蔦の揺り籠に包まれるようにして、柔らかくまどろんでいた彼女の想い。イレーヌが遺した石碑は、彼女がその生を閉じる最期の瞬間まで願い続けた想いの丈が十分すぎるくらいに込められていた。
「いったい、何だってんだよ?どれどれ……
そうして僕は、何もかも変わってしまった18年後の世界の中で変わらぬ想いを見つけた。
『この鉱山にある鉱石を使えばレンズの力を大いに高めることができるようになります。
そうすれば、生産力は増大しすべての人々が豊な暮らしをおくれるようになるでしょう。
鉱石は、ノイシュタットの貧富の差をなくせる奇跡の石となるのです。
この奇跡の石は光との化学反応によって作られるもののようです。
偶然、光が差し込むよう岩がつらなっていて偶然、この場所に石があった。これはきっと神様からの贈り物なのでしょう。
ですから、この場所を壊さぬよう大切に守っていってください。
この場所を守ることがそのまま、ノイシュタットの人々を守ることになるのですから。
ノイシュタットの今を支える大人たち、そして明日を担う子供たちの幸せを私たちは祈っています。
これを読む、未来の誰かへ。
オベロン社 ノイシュタット支部長 イレーヌ=レンブラント
開発部 =
「なるほどねぇ……確かに鉱石は兵器だけじゃない、工場や船にも使えるもんな。俺たちはそのことに頭がまわらなかった。これじゃ、兵器を作ったやつと同じだな」
純粋すぎるくらいまっすぐに想いを貫いた二人を知っている僕には、ロニの言葉は耳に痛かった。まさかこんなところ……それもイレーヌだけじゃない。あいつの辿った生の軌跡を、目にすることになるだなんて思わなかった。
「……ううん、ベルクラントを作った人たちは兵器を作ろうとしたんじゃないのよ。元々あれは厳しい環境から人々を救うため、天上に新しい大地を作るために開発された奇跡の装置。……結局は使う人の意思なのよ」
あいつと瓜二つの顔で言われるその言葉は―――そのままの言葉に思えて仕方なかった。
「だが、オベロン社は前者さ。そして……イレーヌもな……。彼女達は道を過った。理想の実現を急ぐあまり即効性を求めて、劇薬を選んだんだ」
「『神の眼』の騒乱の話か?そうだな……こんな風に考えられる人たちがいったい、なんで………どうして、スタンさんたちを裏切ったんだ……?」
ロニの言葉はおそらく前者はイレーヌへ、後者はへ宛てたものだったのだろう。小さな頃から裏切り者として頭に刷り込んだはずのの存在は、イレーヌほど簡単に受け入れられはしないだろう。尊敬するスタンやルーティを実際に裏切っているのだから、なおさらだ。それでも彼女の裏切りに疑問を持ったロニの言葉は、ほんの少しだけでも僕の心を軽くしたのも事実だった。
「けれど……イレーヌさんやさんの想いはウソじゃなかったと想う。ノイシュタットに住む人たちのことを考えて鉱石を掘っていた。そしてこの場所が荒らされ、鉱石が取れなくならないようメッセージを残してくれていた……。だから、ここはこんなにキレイなのよ。まるで……宝物みたいに」
ダリルシェイドへ住処を移しても、はノイシュタットへ手紙を送り続けていた。茶の席で、まるで自分のことのように楽しげに語った街の子供たちの話。きっとあの街には僕たちの出会いを含めて、本当にたくさんの想いが残されていたのだろう。
イレーヌがにこれほど大切なものを見せた意味が、なんとなくだが僕には分かる。あいつならばきっとイレーヌの話を本気で信じたのだろう。街を良くしよう、頑張ろう、と彼女を奮い立たせたに違いない。―――それがイレーヌを劇薬への道に走らせただなんて露ほども思わずに。
「宝物か……か。案外、こっちが本当の宝かもしれないな」
「そうだね!きっと、そうだよ!」
「本当の、宝…………ふっ、安っぽいセリフだな」
「へっ!うるせーよ……」
照れたようにロニが口を尖らせる。けれど、先ほどの言葉はあながち嫌いでもなかった。
「……だが、安っぽいのもたまにはいい」
「ジューダス…」
「さて、本当の宝も見られたことだし街に戻るとしますか」
「うん!」
ここへ来て良かった。
言葉にすることは決してないけれど、切にそう思う。イレーヌやの尊い想いを知らずに荒らされるようなことになっていたら、僕は間違いなく後悔していただろう。
今この時ばかりはカイルの暴走と男の小賢しい企みがもたらした偶然に感謝した。この場所を守るという二人の願いを、想いを知ることが出来て本当に良かった。
「オベロン社跡地のこの屋敷を買い取ったら金庫に遺言状が入っておってな。それにしてもあのバカども、ちょっとおだてたら飛んで行きよった。ヤツらが途中でのたれ死んだとこれでこっちの被害は1ガルドもない。我ながらうまくしてやったものだ」
「相変わらず商売上手でいらっしゃる。あやかりたいものですなぁ、ホーホッホッホッ!」
悪趣味な装飾に施された屋敷の正体が、品も格もあったあのイレーヌの屋敷だったとは。外殻の落下に伴って大幅に作り直された街の配置のせいで気が付くことが出来なかったことを、今更ながらに恥じる。かつてはこの場所で暮らしたこともあったというのに。言われてみれば、外観はそれなりに面影が残っていたかもしれない。ともかく、これで彼女の遺言状がどこから男の手に渡ったのかハッキリした。
扉の向こう側から聞こえる品も格もない卑下た笑い声を、半ば感心しながら耳にする。給仕のメイドが引きつった笑みを浮かべながら、ドアの傍で控えている。こんな主人を持ってさぞかし苦労していることだろう。これほど開けっぴろげな声で何もかも喋ってしまうのだから男は小悪党止まりなのだと、思わず正直者の自分は小言を漏らしてしまった。ああ、うっかりしてしまった。
「おお、お待ちしておりましたぞ!ケガなどされていないかとそればかりが心配で……」
扉が開かれた瞬間、取り繕った下手糞な笑顔と揉み手に反吐が出る。男の目論見が皆に知れ渡った今、誰もヤツの言葉を信じる者はいなかった。
「ケッ、ウソこけ!」
ロニの悪態を聞かなかったことにして、男は不気味になるくらいにこやかな顔を貼り付けてカイルに擦り寄ってきた。まるでその姿は光に吸い寄せられる哀れな蛾のようだ。
「ところで、お約束の品は持ち帰っていただけましたかな?」
「ああ、もちろんさ!ほらっ、これ!」
「……これが本当に宝なのですか?」
貼り付けられていた表情がぺらんと剥げ落ちた音が聞こえたような気がした。所詮、男程度では取り繕うなど高等な人間のテクニックは使えなかったようだ。そんなことにも気が付かず、男は目の前に差し出された『宝』を食い入るように見つめている。
「これしか、それらしいものはなかったぜ?」
ニヤニヤ笑いながら告げるロニをやっぱり無視しながら、男は縋るようにカイルに尋ねる。
「……あの、これはいったいなんなんでしょうか?」
「知らない!」
「俺たちは、ただ宝を持ってこいと言われただけなんでねぇ」
「……ふっ」
「そ、それはそうですが……」
往生際の悪さだけは見てくれ通りか。差し出された『宝』は男の目には石っころにしか見えないことだろう。これにどれほどの価値があるかも知らずに。
「さ、約束のモノは持ってきたんだ。報酬をいただきたいんだが?」
「……し、しかしなんなのか、分からないものでは宝とは呼べないのでないかと……」
寧ろこれは男には過ぎた『宝』だと言うのに。
それでもイレーヌとが願った『あの場所を守る』ために、ここは男に宝を引き取って納得してもらわなければならない。
「……この期に及んでまだ何か持ってこいと言うのか?」
さり気なくまわされた手は、安物の剣へ。眼光は男へ向けてそのまま。
「ひっ!な、な、なんでもありませんっ!どどどど、どうぞお受け取りを!」
商談は、無事成立した。
「やったぁ!」
「んじゃ、そういうことで」
男の薄汚い根城に、これ以上の用はない。もうあそこはイレーヌや、僕が過ごした頃の面影はないのだから。
遠ざかっていく思い出を、もう振り返らないと決めた。今僕が出来ることは、今という時の中にしかないということが分かったから。
「あはははっ!ねぇ、あの顔見た!?」
屋敷が視界の中から消えた時、こらえていたものをようやく吐き出したように大声を上げてカイルが笑った。
「金を渡すときだろ?苦虫噛み潰したような顔してたな」
「これで、良かったのよね。ジューダス?」
「……おまえたちにしては、上出来だ」
『宝』は渡した。『想い』は守った。―――それで、十分だった。
「うん、良かった。二人の想いを守ることが出来て……本当に良かったわ」
レクシアが柔らかく微笑む。彼女はあの石碑を見てどう思ったか、少し聞いてみたくなった。によく似た顔を持つ彼女は、あの二人の想いをどう受け止めたのだろう?
「さて、これでヒマも潰せたことだし船着場にいってみるか?」
「うん、そうだね!」
そうして穏やかな気持ちで、港へ足を踏み出そうとしたまさにその時の事だった。
「―――――オイ、あんたら」
どこか野生的な響きを持った男の低い声が投げかけられる。
「え?」
咄嗟に声を漏らしたのは一体誰だったか。
柔らかく、少しクセのある茶色の髪。アーモンドのような特徴的な吊り目は髪の色と同じ茶色で、強い意志が静かに灯されているような印象的な瞳だった。細身ではあったがスラリと背は高く、ロニと同じほどの背丈がある。年のころは恐らく20代後半。ほどほどに筋肉質で、まるで猫のような隙のない仕草で男が一人、そこには佇んでいた。
「全く余計なことをしてくれやがって。わざわざ土砂で道を塞いでおいたっていうのに、まさか発破しちまうなんてなぁ……」
「あの、どなたですか?わたしたち、あなたとは初対面だと思うのですが」
男の声に困惑したようにレクシアが前に身を乗り出す。
パーティ内最年長という背負いもあってのことだろう。戦闘で役に立てない分、こういうところで前に立たなければと思ってのことかもしれない。とにかくカイルやリアラを庇うようにして前に出たレクシアの言葉には警戒の色が滲んでいた。
「俺はな、あの場所の守人って言っ―――ッ――!!?」 「………え?」
ひゅ、と息を飲んだような音。その音が聞こえたと思った次の瞬間に、男はレクシアの細い肩に両腕を伸ばしてた。
「ちょっと、おい!てめぇ、何しやがる!」
予想外の出来事に咄嗟の反応が遅れた。それはロニも同じようだったらしく、男の無粋な手がレクシアの肩を強く押さえつけた様子に慌てたように噛み付いた。
同時に胸の中にじわじわと広がっていく染みのようなこの思いはきっと、男に対する強烈なまでの嫌悪感。男の身なりはそれなりに整っていたが、よくもまあ出会い頭にレクシアに手を出したものだ。吐きつけたくなるようなどす黒い物を開放して、今すぐ斬りかかりたくなるような衝動が芽生える。
「……お、おまえ………?」
男が戯言を呟く。けれど、またもや僕らの意識を遮るような……今度は女の甲高い声が響き渡った。
「―――――おねえちゃん!!!」
男に掴まれて硬直したままのレクシアの背中に、彼女と同じほどの背丈のものが飛びついてくる。それは、男と同じような色の髪を持った小柄な女性だった。
「!!!?」
「ちょ、おいっ!……ミシェル!!?」
慌てたように、男がレクシアの頭越しに女の名を呼ぶ。そこで初めて僕は、男の声にどこか聞き覚えがあることに気が付いた。
「やっと見つけた……っ…おねえちゃん、おねえちゃん、おねえちゃん……!!」
小柄な女は声を震わせて、いやいやとレクシアの背中にしがみつく。
その様子に訳が分からないと言った様子なのは男と女を除く―――つまりはレクシアも含めたほぼ全員が困惑していた。
「……え、あの……ええ…?……」
ここへ来て、僕はようやく一つの可能性が閃光のように頭の中で煌くのを感じた。
突然の男の奇怪な行動のせいで理解が遅れてしまったが、冷静になってよく考えてみればここはが以前暮らしていた街だ。つまり、と同じと言っても過言ではないほど良く似た顔を持つレクシアの存在は、この街に住む住民にとって見れば懐かしい顔と言うわけで。
=という人間を理解し、慕っていた人間には無視することの出来ないほどのものだったということだ。
――――まずい。そう思ったその瞬間には、もう手遅れだった。
「………おねえちゃん……っ…!!」
男の名前はロイ。
女の名前はミシェル。
目の前の二人は、茶の席でまるで自分のことのように楽しげにが語った、ノイシュタットの明日を担う子供たちの成長した姿だったのだ。
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