2021.04.24 執筆

一日だけ女の子になっちゃった!

リンクが女の子になってしまった。

 元々彼は中性的な顔立ちをしていた。しかし、その性別は確かに男性であったはずだ。そうだというのに、今、リンクの首はほっそりとしており、肩幅もすっかり薄くなってしまった。何より特徴的なのは胸元だ。元々鍛えられていた胸板は、今やたわわに実ったヒンヤリメロンが詰まっていて、意識せずとも目が吸い寄せられてしまう。丸みを帯びた細い腰。程よく締まった肉付きの良い体。……自然と目を奪われる美少女が爆誕してしまった。
「一日経てば治るって聞いたんだけどさ。まさかの俺も女の子になるとは思わなかったよ」
 元凶は全然悪びれないし。いやまあ、知ってたけど。プルアも散々な言われようだ。
 ゼルダは顔を上げた。
「……『私』ですよ?」
「へ?」
「女の子が『俺』だなんて乱暴な口をきいてはなりません」
「いや、あのですね……? ゼ、ゼルダさん……?」
「今日は一日、色んなことをしましょうねっ」
 語尾にハートマークが見えるのは気の所為ではないだろうか。ハテノ村にある外れの家に戻ってくるなり前述のやり取りになったゼルダを前に、当事者であるリンクは早速置いてけぼりをくらっていた。
「とっても楽しみです!」
 ……可愛いから、いいか。
 惚れた弱みというか、なんというべきなのだろうか。うきうきと顔を輝かせるゼルダを前に、順応力の塊であったリンクは比較的あっさりと女体化した己を受け入れた。

   * * *

「やはり女の子になったからにはこちらへ向かうべきだと思ったのです!」
 所変わって、場所は灼熱の大地。
 じりじりと照りつける太陽が何もかもを焦がす、ゲルド砂漠にある屈強な女達の街。ゲルドの街。その入口までシーカーストーンでワープをしてきた二人であったが、ぐっと拳を握りしめたのはゼルダだった。
「今日なら顔を隠さなくても入れますよっ!」
 顔を隠しさえばいつも入れちゃえるから、特に変わらないんだけどなー。というリンクの内心など知らぬゼルダはうきうきとしていて大変可愛い。リンクはにっこりとした。
「そうですね。今日なら私でも大丈夫そうです」
「はいっ!」
 ご機嫌だ。向日葵みたいなゼルダの眩しい笑顔に、リンクも釣られて笑顔になる。
「はぐれないように手を繋ぎましょうね」
 いつもなら恥ずかしがって繋いでくれない手も、女の子同士なら恥ずかしくないのか、いつになくゼルダが積極的だ。こんな役得があっていいのだろうか。こればかりはプルアに感謝しなければならないと東の方角に感謝の祈りを捧げながら、リンクはゼルダに手を引かれて歩いていく。
 特に門番に弾かれる理由もなく、二人は至って平穏にゲルドの街にたどり着いた。砂漠のど真ん中という辺境の地でありながら、ゲルドの街は今日も賑わっている。
 オアシスの水を利用して至る所に張り巡らされた水路のおかげで、街の中は日中でも過ごしやすい。大きく育ったヤシの木が風に吹かれて揺れていた。立派な通りには露天が賑わい、めいめい敷物の上に自慢の商品を並べている。
「サヴァーク」
 ゲルド式挨拶も手慣れたものだ。
 しゃらりと揺れる女達の装飾品を目で追って、不意にリンクは素晴らしいことに思い至った。
「顔を隠さなくても入れるとはいえ、やはり暑いですから服を変えませんか?」
「え……?」
「きっと涼しいですよ」
 何度かゲルドの街を二人で訪れたことはあったものの、ゼルダは頑なにいつもの服を変えることはなかった。曰く、あの衣装だとお腹周りが気になるらしい。リンクとしては全然、全く問題などなかったし、むしろすべすべで触り心地最高なのだが、ゼルダは断固として拒否した。嫌がる彼女に無理強いするわけにもいかず、結局いつもリンクばかりが淑女の服を着るということになるのだ。
 とはいえ、ゲルドの民族衣装で着飾ったゼルダを見てみたいというのが正直なところ。きっと可愛いに違いない。
「それに、女の子同士なら恥ずかしくありませんよ」
「…………確かに!」
 すごいぞ女の子パワー。何でもいけるんじゃないのか女の子パワー。
 いつもはにべもないゼルダがこうもあっさり快諾するとは思わず、リンクは目を瞬かせた。
 兎にも角にも善は急げだ。ゼルダの気が変わらないうちにと呉服屋で揃いの服を買う。色違いのおそろいを買い求め、試着室で着替えさせてもらった。ありがとう女の子パワー。淑女の服を身にまとったゼルダは、悶絶したくなるほど可愛かった。
 長い金髪は高く結い上げられて、ゆらゆらと風に揺られている。
 いわゆるポニーテール。白いうなじが目に眩しい。白を基調とした淑女の服には、所々に金属で作られたアクセサリーがあしらわれていて、ゼルダが歩くたびにしゃらりと揺れる。すべすべとした柔らかそうなお腹。薄っすらと生地越しに透ける肌。ハイリア人としてはなかなかの着こなしではないかと自負していたリンクも、ゼルダを前にしてしまうと型抜きだった。ゼルダがやはり一番可愛い。ナンバーワンだ。
 ……という心の声はおくびにも出さず、リンクは穏やかに微笑んだ。
「よく似合っています」
「あ、ありがとうございます……」
 照れてるゼルダを頂きました。
「おそろいですね」
 そう口にして、恥ずかしそうに微笑む。――ああああ何回だって言う。ゼルダが一番可愛い。
 おそろいの淑女の服を身に纏い、リンクとゼルダは露天を冷やかして歩いていった。雑貨屋には普段店頭に上ることのない珍しい矢があったし、生鮮食品を取り扱う店の隣には、新しく飲み物を取り扱う店が出来ていた。なんでも、新しいサービスらしい。早速ヒンヤリメロンのジュースを買い求めると、乾いた喉に自然な甘みが嬉しい。そのあまりの美味しさに、ゼルダは思わずおかわりをしてしまったほどだ。
「……少し飲みすぎてしまったみたいです」
 もじもじとしているゼルダを前に察しが付いて、リンクは声を上げた。
「お手洗いはあっちだよ」
 公共のトイレがあった筈だ。余談ではあるが、ゲルドの街はヴォーイ禁制なのでヴァーイ専用のトイレしかない。かつてそれで地獄を見たのでよく覚えている。矜持を取るか尿意を取るか。あれは究極の選択だった……と遠い目をしているリンクを他所に、ゼルダは「いってきます」と踵を返してしまった。
 なんとなく手持ち無沙汰になってしまう。ぼんやりとリンクが周囲を見渡していると、露天に並んでいる宝飾品に目が入った。
「おや、何かお探しかい?」
「んー、ちょっとね」
 店主の言葉を話半分に聞きながら、リンクの目は一つの宝飾品に吸い寄せられていた。
 小ぶりの翡翠がはめ込まれたブレスレットだった。金の金具で繊細は繊細な文様を描いている。全体的に華美なものが多い中、そのブレスレットは慎ましく鎮座していて、つい目を吸い寄せられてしまったのだ。
 ゼルダの瞳と同じ色だ。そう思った時には、声を上げていた。
「お姉さん、これいくら?」

   * * *

「困りましたね……」
 お手洗いで用を足して帰ってくると、元いた場所にリンクの姿がない。ゼルダは眉根を寄せた。
 いつもの格好であればすぐに分かった筈だ。しかし、ゲルドの民族衣装をお互いに身に纏っていたため、完全に周囲の景観に溶け込んでしまっている。思わぬ誤算だ。
「多分、近くにいるとは思うのですが……」
 口にして、辺りを見渡してみる。衣装こそ同じだが、リンクは金髪だ。赤毛のゲルド達の中、見つけるのはそう難しくはないはず。
 目を凝らし、耳を澄ましながら歩いていく。ちょうど裏路地に差し掛かったところで、ゼルダの耳にヴァーイ達の声が入ってくる。
「120分で10ルピーさ」
 口にしたのは商売人らしいヴァーイのゲルド。支払いをしたのは一組のヴァーイ達だった。
 友人同士にしては二人の距離が近いように見えるのは気のせいだろうか。しっかりと握り締め合った手のひらが印象的だ。ぼんやりとそんなことを考えていると、支払いを終えた二人が建物の中に姿を消してゆく。なんとはなしに興味を惹かれて、ゼルダは入り口に立っているヴァーイに声をかけた。
「サヴァーク」
 ゲルド式の挨拶をすると、入り口のヴァーイは怪訝そうな顔をした。
「一人?」
「え、ええ……」
 その問いかけの意図が分かりかねて、ゼルダは小首を傾げた。
「あの、こちらは何のお店なのでしょうか?」
 見たところ、商品を扱っているようには見えない。それに、先程時間に対しての価格を耳にしたばかりだ。ということは、ここはマッサージやエステの店なのだろうか。
 尋ねるゼルダを前に、入り口のヴァーイは困ったように息を吐いた。少しだけ逡巡した後に彼女は長身を屈め、ゼルダの耳元に口を寄せる。
「ここは恋人同士のヴァーイ達のために愛の営みの場を提供しているお店。分かったなら、お帰りなさいな」
 可愛いハイラルのヴァーイ。
 青いルージュの乗った唇に蠱惑的に囁かれて、ゼルダは真っ赤になってしまった。
 まさか、そういうお店だとは思わなかったのだ。
(でも入っていったのは女の人同士で……えっ、ええ……!?)
 まったく知らないというわけでもない。愛の形は多種多様だ。男女は元よりのこと、男性同士でも女性同士だってありえる。頭ではそう分かっていたはずなのに、実際目の当たりにして動揺してしまったのだ。
「し、失礼しましたっ!」
 顔どころか全身真っ赤にして、ゼルダは右手と右足を出して踵を返す。
 ようやく人通りのある大通りに戻ってきても、顔の熱はなかなか引きそうになかった。
(そうですよね……この街は女の人ばかりなんですもの)
 ヴォーイハントに出かけるというのが古くからの習わしとはいえ、同性に惹かれる人がいてもなんらおかしくない。今更のようにその事実に気がついてしまって、ゼルダは自らの凝り固まった考えを恥じた。愛する人と睦み合いたいと考えることは、性別に限らず沸き起こる自然な欲求のはずだ。
(私だってリンクと……その、したい、ですし……)
 すでに恋仲関係になって久しい。最初はなかなか手を出してくれなかったけれど、ようやく慣れてきたのか、リンクも積極的になってくれるようになった。あの逞しい腕の中に抱かれるとどうしようもなくドキドキしてしまうのだ。お腹の奥がきゅんと甘く疼く。
(で、でもでも! 今のリンクは女の子ですし!)
 華奢な首筋や肩幅。豊かに実った胸を思い出す。少なくともリンクは、そういうことは考えていないはずだ。
 いつの間にかはしたないことを考えてしまっている自分に気がついて、ゼルダは慌てて首を振った。楽しいお買い物のはずが、すっかり脱線してしまった。
「そんなことよりもリンクを探さないといけませんよねっ!」
 ゼルダは力強く頷いた。いつの間にかすっかりはぐれてしまったのだ。きっとリンクも心配していることだろう。

   * * *

「まずったな……」
 露店を覗いていた時間はさほど長くはなかったつもりだったのだが、どうやらゼルダとは入れ違いになってしまったようだ。彼女の姿はどこにも見当たらない。リンクは唇を噛んだ。活気のある街というのはそれだけ人通りも多いので、一度見失ってしまうと見つけるのは困難だ。
 ゲルドの街はそれなりに広い。露天の並ぶ通りやマッサージを提供する宿屋、スナアザラシのレンタルショップとゼルダが興味を惹かれそうな場所を探してみるものの、姿はない。とうとう街を一周してもゼルダを見つけることができず、リンクは困惑した。
「長い金髪のポニーテールが可愛い女の子なんだけど、こっちには来ていない?」
 門の前まで来たのは、ゼルダが街を出ていないか確認するためだった。街を一周しても見つからなかったのだ。万が一ということも視野に入れなければならない。
「ハイラル人のヴァーイよね?」
 門番のヴァーイの言葉にリンクは頷いた。ゼルダの容姿は目立つはずだから、記憶に残らないということはまず考えられない。
「いえ……見ていないわね」
「そっか。ありがとう!」
 どうやら街の外には出ていないようだ。それなら、もう一度街の中を探して……。考え込むリンクに声が飛んできたのは、そんな折だった。
「き、キミ!」
「ん?」
 声につられて顔を向ければ、砂漠には珍しいハイラル人の男性が立っている。長めの前髪の下から覗く几帳面そうな顔と四角いフレームの眼鏡。
「どっかで見たような……?」
「ボテンサ! ボテンサだよ、ほら。キミにスノーブーツを貸した!」
「あー、なるほどね」
 言われてようやく思い出す。サンドブーツ欲しさに声をかけて、スノーブーツを貸してもらった人だった。ちなみに八人目の英雄像はまだ見つけていない。
「最近見ないからどうしたのかと思って」
「いや〜、こう見えても忙しいんで」
 面倒臭い相手に見つかったな。内心そう思っているリンクとは裏腹に、ボテンサはなんとか会話を引き延ばそうと躍起になっている。
「それにしても、な、なにか雰囲気変わったね……全体的に、こう……」
 ボテンサはリンクを上から下まで見て、赤くなった。もじもじとしている。彼の視線の先がある一点で止まったことに気が付いて、リンクは半眼になった。自分も元男なので、ボテンサの気持ちは分からないでもない。
「……丸くなった?」
 今の自分には、丸々とした胸がついているはずだ。元主人を差し置いて大きく実った脂肪の塊を指先で示せば、ボテンサはぶんぶんと大きく首を振った。チッ、童貞め。
「そ、そうじゃなくて。き、き、き綺麗になったなって……!」
「へ?」
 思いがけない返事に呆気にとられていると、ボテンサは可哀想になるくらい真っ赤になっていた。額からはだらだらと滝のような汗が流れている。
「ありがとう……?」
 しかし、見ないようにしている体を装いつつも、つい視線で胸を追っているのが分かってしまう。隠すのが下手というかなんというか。女目線だとこんな風に見えるものなのだなと己を垣間見るような気持ちだった。けしてゼルダをやましい目で見ているつもりはないけれど、たまに……そう、たまにあの大きなお尻に釣られてしまう。やっぱりばれているのだろうか。そうだとしたらとてもいたたまれない。
「せっかくまた会えたんだから、今度こそ一緒に八人目の英雄像について……!!」
 ゼルダのことを考えることに夢中だったためか、ボテンサのことをすっかり放ったらかしにしてしまった。彼に手を握られるまで気が付かなかったほどだ。
(お?)
 ボテンサは緊張しているためか、力加減がなっていないようだ。適当に振りほどこうと思ったものの、その力は案外強い。……というよりも振りほどけない。
 困惑しているリンクとは対象的に、いつもは猫のようにするりするりとアピールを交わしていく憧れの君を捕まえた興奮もあってか、ボテンサがぐいぐい近づいてくる。
「暑いからそこの影で……ねっ?」
「いや、俺は……」
 ドサッと物音がして、反射的にリンクは振り返った。見れば、門の前に探していたゼルダがいるではないか。彼女の足元には買い物袋が落ちていた。恐らくこれが先程の物音の正体なのだろう。
「あの子も凄く可愛い……」
 ゼルダを視線で追ったボテンサの鼻の下が伸びる。リンクは真顔になった。勿論、余計な男がまた一人ゼルダに恋しようとしているからに他ならない。
「……可愛い子ならいいんだ」
「えっ!? あ、いや!? ぼ、僕はキミ一筋……」
 ボテンサは分かりやすく慌てている。必死に弁明しようとするあまり、掴むその手の力はますます強くなった。
「痛っ」
 思わず声に出てしまった。それにしても、ボテンサの力はこんなに強かっただろうか? 微かに困惑するリンクとボテンサの間に割って入ってくる影がある。
「この子は私の連れです。乱暴をしないでください!」
 ゼルダだった。呆気にとられているボテンサからリンクを奪い取り、キッと強く睨みつけている。
「行きましょう」
「えっ、あの……ご、誤解……!!」
 呆気にとられているボテンサを置いて、リンクの手を握りしめたまま、ゼルダは足早にゲルドの街の中に入っていく。街の中にさえ入ってしまえばこっちのものだ。ヴォーイであるボテンサは追ってこれない。彼の悲痛な声は、既にリンクにとって雑音になっていた。
「助かったよ、ありがとうゼルダ」
 案外力が強くて振りほどけなかったんだ。
 しかし、ゼルダはリンクの言葉に答えない。それどころか顔を強張らせたまま、足早にゲルドの街の中をぐんぐん進んで行く。繋いだ手はそのままだった。
(……?)
 どうやら目的地があるようで、まもなくゼルダは広い通りを抜け、薄暗い路地裏の中に入っていく。やがて、周囲に隠れるようにして佇んでいる小さな建物の前へと辿り着いた。
 そこまで来ると、リンクも何となく周囲を察してくる。
(ていうか、この場所は……え、ちょっと!?)
 相変わらずゼルダからの返事はない。
 代わりに彼女は、建物の入り口に立っている一人のヴァーイに目線を向けた。
「おや、またあんたかい」
「120分10ルピーでしたよね」
 ひとまず、これで。差し出されたのは真っ赤なルピーだ。一つで20ルピー相当ある。
「あの、ゼルダ……」
「付いて来て下さい」
 有無を言わさず引っ張り込まれてしまう。
 通されたのはこぢんまりとした一室だった。
 部屋の中は薄暗い。間接照明しか設置されていないのだ。ゆらゆらと蝋燭の炎が揺れている。
 微かに鼻孔をくすぐるのは香の匂い。異国の匂いだ。鮮やかに染め上げられた織物が至る所に飾り付けられていて、目を楽しませてくれる。輝く姿見。身だしなみを整える為の机と椅子。そんな部屋の中でひと際目を惹いたのが、中央に鎮座しているキングサイズのベッドだった。
(ここって……アレする場所だよな……!?)
 というかベッド以外ろくなもののない部屋ですることなんて一つしかない。どうしてゼルダがそんな場所を知っているのか。なぜこんなところに今自分は立っているのか。正直、疑問は山のようにある。
 ちらり、と伺うようにゼルダを見た。
 彼女はうっとりと見惚れるような笑顔を浮かべ、そして。
「リンク、ここに座ってください」
 ベッドを指さした。
「あ、あのですね。ゼルダさん……?」
「座ってください」
「はい」
 長年染みついた主従関係には逆らえない。一も二もなくリンクはベッドに腰かけた。「いい子ですね」とゼルダがご主人様の顔になっている。なんてことだ。
「ゼル……っ」
 名前を言い切ることはなく、降ってきた唇に飲み込まれた。ゼルダにキスされたのだ。
 いつになく積極的なゼルダのキスに、リンクは瞼を閉じた。柔らかい唇の感触を感じる。いつもは慎ましやかに開かれる唇の中から、ゼルダの温かい舌先が顔を出していた。勿論遠慮なく美味しく頂く。
「……っ、は、ん……っ」
 熱い吐息が零れ落ちる。まるでこうすることを待ち望んでいたかのように歯列をなぞり、舌と舌とが絡み合う。ゼルダと深くキスをしているのは気持ちがいい。
「……今日は、すごく積極的だね」
 どうしたの?
 キスの合間。顎を伝う唾液を拭いながら口にすれば、ゼルダは不満そうに唇を尖らせる。
「リンクがあまりにも無防備だからです」
「へ?」
 リンクは呆気にとられた。ゼルダが口にした言葉の意図が読めなかったのだ。
「俺が? ……無防備?」
「そうです。門の前での男性……あの人、リンクのことを狙っていましたよね」
 ボテンサのことだ。彼は別に女体化したからリンクを狙っていたという訳でもなかったのだが、ゼルダにはそう見えてしまったらしい。弁明のために口を開こうとするものの、それよりもゼルダの追撃の方が早かった。
「今のリンクは魅力的な女の子なんです。ちゃんと警戒心を持ってもらわないと……襲われてからじゃ遅いんですからね」
「襲われませんよ!!?」
 飛び出してきたとんでもない言葉に、リンクは思わず目を剥いた。
「こんなんでも男ですし、ちゃんと対処出来ますから」
「でも今は女の子です」
 ゼルダの反論にぐうの音も出ない。そもそも、言葉で彼女に勝とうというのが分の悪い戦いなのだ。しかし、ボテンサに後れを取ると思われているのは心外でしかない。
「俺の腕前は知っているでしょう」
 ゼルダはこっくりと頷いた。
「勿論知っています。ですが、単純な筋力差は、男性と女性では全く異なります」
 現に、あの男の人に手を掴まれて、リンクは振りほどけなかったでしょう。
 そう口にするゼルダの顔つきが真剣そのもので、リンクは思わず声を失ってしまった。
 ゲルドのヴァーイ達が屈強なのは、その体格が恵まれているからに他ならない。ハイリア人の中でも小柄な部類に入るリンクであると、女体化をしてしまった時点でどうしても筋力が劣ってしまう。
「それは……」
「だから、警戒心を持って欲しいんです。……リンクを、他の誰にもとられたくないから……」
 そう口にして、ゼルダは目を下げた。
 あくまでリンクの身を案じようとしてくれているのだ。なんだかじーんとして、リンクはベッドに座り込んだ。男だろうが女だろうが、ゼルダは変わらずリンクのことを大切に想ってくれている。
「ですが、やっぱりボテンサに後れを取ると思われるのは心外です」
 これでも一応元騎士なのだ。リンクの反論に、ゼルダの目がすっと細くなる。
「本当にそう思っているんですか?」
 白い指先が、するりと薄布の隙間から入ってくる。その艶めかしい動きに、咄嗟にリンクは短い呻き声を上げた。
「そんなに可愛らしい声をしているのに?」
 咎めるようなゼルダの声。ふわふわとしたいつもの彼女とは異なる声音にリンクが困惑してると、白い指はまるで理解をしているかのように、薄布の隙間から乳房を持ち上げた。
「大きな胸……。あの方はずっとリンクのここを見ていたのですよ」
「そんな、ん……っ、俺……」
「俺じゃありませんよ。『私』でしょう?」
 再び言葉遣いを矯正されてしまう。その間もゼルダの指先は胸元をくすぐるように撫でている。手が小さいので胸の方が余ってしまうのだ。もぞもぞとして、どうにももどかしくなってしまう。こんな感覚は生まれて初めてのことなので、どうしたらいいのか分からない。
「ねえ、見てくださいリンク」
 衣擦れと微かな息遣いが満ちる部屋の中で、ゼルダの声が聞こえる。導かれるようにして視線を向けると、その先には姿見の鏡があった。
 ここはゲルドの街だ。ヴァーイ達は身だしなみに気を遣う。
 しかし、この部屋において姿見は身だしなみの為だけに使われているとは思えない。
 鏡の中にはすっかり淑女の服をはだけさせた胸の大きな女が座り込んでいた。頬はすっかり紅潮し、だらしのない顔をしている。もっと男性的な顔をしているものだとばかり思っていたものだから、はじめリンクはその雌顔をした人間が自分であることを理解できなかった。
「大きな乳輪ですよね」
 胸の大きさに比例するように、ピンク色のその範囲は明らかに広い。
「なのにとっても慎ましくて……。ふふ、可愛らしいです」
 リンクの背中越しにゼルダは上品に微笑んでみせた。鏡越しに小さな指が乳輪をなぞるように優しく触れる。敏感なその場所を何度も刺激されて、自然、リンクの体は震えてしまった。
「ねえ、感じているの……分かります? リンクのここ、ほら。膨らんできましたよ」
 たおやかな声が、鏡の向こう側を指し示す。
 鏡の中のリンクはすっかり興奮していた。その証拠に、先ほどまでは顔を覗かせていなかった乳頭が、すっかり立ち上がって自己主張をし始めている。ゼルダはその敏感な場所を優しくきゅっと摘まんでみせた。
「んう……っ!!」
「うふふ、リンクってばこんな可愛らしい声で感じるんですね……」
 これは癖になってしまいそうです。ゼルダはうっとりと目を細めている。こんな風にゼルダに追い詰められてしまうと、何だか体の奥が熱くなって……そこまで考えて、リンクははっとした。本当に身も心も女の子になってしまいつつある自分の順応性が怖い。
 快楽に流されそうになる己を鼓舞し、リンクは体をひっくり返した。このままでは、男としての矜持とか何もかもが吹き飛ばされてしまいかねない。ベッドの上にゼルダを押し倒す。
「きゃあっ」
「今度はこっちの番。もう十分遊んだでしょ」
 華奢なゼルダの上に馬乗りになれば、ゼルダはくすくすと楽しそうだ。どうやら機嫌を直してくれたらしい。
「優しくしてくださいね」
「さあ、どうかな」
「また口調が戻ってますよ」
「……どうでしょうね」
 そこはしっかりチェックするらしい。言葉遣いを訂正して、リンクはゼルダの薄布を剥ぎ取って行った。薄暗い部屋の中に輝くようなゼルダの白い肌が現れる。
「お……私はゼルダの胸の方が好きですよ」
 見事なお椀型で手のひらにすっぽりと収まるのが心地よい。ピンク色の乳首もまさに理想通りの形で、自分の奇怪な胸より遥かに素晴らしいと思う。まさに理想通りの思い描いた胸。初めて実物を拝んだ日は、感激したくらいだ。
「うふふ。私はリンクの見た目と裏腹に慎ましいお胸も好きですよ」
 そう口にして、右手で悪戯に乳首を摘まむ。
「ぎゃあっ!」
「こら。女の子がそのような言葉遣いをしてはなりません」
「で、ですが……」
 そうでもしなければ、また変な声を出してしまいそうな気がするのだ。何もかもを振り切ってしまうには、曲がりなりにも男として躊躇があった。
「じゃなくて、私がゼルダに触る番です」
 柔らかい乳房に唇を落とす。そうすると、お手本のようにか弱くて可愛い声がゼルダの唇から零れ落ちた。……うん、やっぱりこっちの方が好きな筈だ。
「というか、私は今女なのですが、お構いなかったのですか……?」
 乳房を思う存分舐めしゃぶりながら口にすることではないかもしれないが、一応ゼルダに尋ねておく。
「ん……っリンクは私とでは嫌ですか?」
「そんなわけないでしょう」
 そこは即答だ。リンクがゼルダとの行為を拒む理由は全くない。
「その……私の、ちん……じゃなかった……だんこ…じゃない、ペニ……男性器はありませんし」
 口にしたリンクの言葉に、ゼルダはきょとんとした顔になった。
「ああ、そういうことですか」
 突っ込むものがないので満足できないのではないか。そんなリンクの心配を他所に、額に微かに汗を浮かべたゼルダは悪戯っ子のように微笑んだ。
「女の子の体はちゃあんと気持ち良くなれるんですよ」
 呆気にとられるリンクの唇に、ちゅっとキスをして、ゼルダが体を起こす。
「今日は私がリンクに教えてあげますね」
 そう口にして、彼女は再び体制を入れ替え、呆気にとられるリンクの上に馬乗りになった。
 ごく自然な動きでゼルダの指先がリンクのズボンに触れる。通気性の良い薄手のそれを、手際よく脱がしていく。あっという間に露わになったリンクの下腹部を目にして、それまで楽しそうだったゼルダがぴたりと固まるのが分かった。
「……? どうかしたのですか」
「…………いです」
「は?」
「リンク、お尻が小さいですよ!?」
 凄い剣幕だった。思わずリンクが呆気に取られてしまうほどだ。
「いや、別に普通だと思いますけど」
「普通なわけないじゃないですか!?」
 お胸はこーんなに大きいのに、腰は折れそうなくらい細いですし、お尻もきゅっと引き締まっててリンクはずるいです。ずるいです~~~~!!
 大変な怒りようだ。しかし、こればかりはリンクにはどうしようもないところだ。
「私はゼルダの大きなお尻は大好きなのですが」
「大きいって言わないでください……」
 がっくりと項垂れている。日ごろからコンプレックスにしているだけあって、リンクとの対比がよほど悔しかったのだろう。
「むっちりとしていて、すべすべで、触るとすごく気持ち良くて……」
「それ以上言わなくていいですから」
 今度は真っ赤になっている。コロコロと表情が変わってせわしない。そういうところも含めて、本当に可愛らしい人だ。
 ゼルダがゆっくりとズボンを落としてゆく。衣擦れの音と共に露わになった臀部は、今日もしゃぶりつきたくなるような肉付きの良さだった。思わず手が伸びると「めっ」と可愛く拒まれてしまう。
「今日は私がリンクに女の子の気持ちを教えるんですから」
 口にしたゼルダがリンクのパンツに手を添える。どうかこれだけは死守させて欲しいと懇願したシーカーパンツだ。伸縮性があるので、女体化してもずり落ちなかったことだけが幸いか。しかしこれも、ズボンと全く同じ要領でゼルダに剥ぎ取られてしまう。手際が宜しい。
「これがリンクの……」
 ゼルダがほうっとため息を付いた。
 シーカーパンツの下に隠されたリンクの花園をつまびらかにしたのだ。
 男性としては体毛が薄い部類であったリンクの秘丘は申し訳程度の金毛が茂っていて、その下の口はぴったりと閉じている。まるで固い蕾のようだ。
「まだあまり濡れていませんね……」
「そりゃあ処女ですから」
 リンクは自信満々に大きな胸を逸らしている。ゼルダはくすりと微笑んだ。
「リンクの大事な所、私が初めて触るんですね」
「そうですよ。……優しくしてくださいね」
「当たり前です。大事に大事に可愛がります」
 そう口にして、ゼルダは躊躇することなくリンクのその場所に口付けた。柔らかくて温かい唇の感触が伝わってくる。
「なんか、変な感じが……むずむずする」
「ここが前庭……この襞は小陰唇ですか。奥のこれが膣口ですね……なるほど、こうやって間近に実物を見るのは……」
「おーい、ゼルダさん」
 専門用語が飛び交ってますが、大丈夫ですかー。そう口にすると、ゼルダははっとした表情になる。
「いけません。つい……」
 色々気になっちゃいました。そう口にしてほうと息を吐く。
「おっほ!?」
 吐息がかかった刺激に、リンクの口からは思いがけない声が零れ落ちる。女性としてはどうなのかと思いたくなる声だが、明らかな反応があった。ゼルダは狙いを一点に定めて、再び唇をリンクの秘部に寄せる。
「あ、う……ぜ、ゼルダ……!」
 リンクの声音に明らかな変化を感じ取って、ゼルダは舌先を尖らせた。傷つけることがないよう陰核にそっと押し付ける。次の瞬間、リンクの体がびくんと大きく震えるのが分かった。
「んああっ!?」
「ああ、リンク……。可愛い……」
 まるでどう触れれば心地よくなるのか熟知しているような舌使いだった。執拗に陰核ばかりを狙うゼルダの舌使いに、リンクの吐息はどんどん荒くなる。比例するかのように秘部はその潤いを増していた。卑猥な水音が暗い室内に響いている。
「あーっ、うーっ!!」
 暴れ出したくなるほどの衝動。しかし、熱源の中心にはゼルダの体がある。満足に動き回ることが出来ずに、リンクは背中を仰け反らせて歯を食いしばった。体中がばらばらになりそうな心地良さ。ゼルダが舌でリンクを舐る度に、思考が散らばってゆく。精をただ吐き出す心地良さとは全く異なる、突き上げるような快楽。その階段を登り詰め、もうあと少しで果てが見えると思った時だった。
「……?」
 ぴたりとゼルダの動きが止まる。
 あと少しでイケそうだったのに。思わず恨みがましい目でゼルダを見つめると、長い髪を頬に貼り付けた彼女は実に色っぽい溜息を吐いた。
「リンクのを見てたら……私も……」
 見れば、馬乗りになっている彼女の腰は落ち着かなさそうにもじもじと揺れている。触れてこそいないが、きっと今頃下着はぐっしょりと濡れそぼっていることだろう。リンクの性器を舐めながら、彼女もまた興奮していたのだ。上気している頬がまたとてつもなく色気がある。
「はぁ……、リンク。一緒に……」
 艶めかしい動きで下着を取り払ったゼルダが、リンクの裸の下肢に圧し掛かった。
 くちゅ、と粘着質な音が暗い室内に響く。まるで合わせ鏡のように、ゼルダの秘部とリンクの秘部が重なり合う。温かくて柔らかいゼルダを感じた、と思った次の瞬間、彼女の腰はゆらゆらと揺れ始めた。
「ふあっ……!?」
「あん……っ、は…ぁ……!」
 じゅくっ、と重なり合う秘部が淫らな水音を立てる。一番敏感な場所がゼルダのそれとぶつかり合う。擦れ、時に潰し、再び圧し付けられる。その都度、突き抜けるような快感が脳天を刺激して、リンクの唇から涎が零れ落ちた。
 声にならない喘ぎ声が迸る。滅茶苦茶に首を振る。こんな気持ちいいの、知らない。分からない。何もかもが吹き飛んでしまいそうになる。
「あっ、あっ、あっ」
 唇から零れ落ちる断続的な嬌声。いよいよ限界を感じ取って、ゼルダが両手を伸ばす。求められたその手に、リンクは必死になって手を握り返した。指先と指先が絡み合う。
「あ~~~~ッ!」
 ピンと足をしならせ、リンクは高みに登り詰めた。ゼルダもまた首を仰け反らせている。
 今まで知ることのなかった未知なる快楽に翻弄され、暫くの間リンクは放心していた。肩で息をしているような有様だ。虚ろな視界の中に、ぴんと高く天を向いた己の乳首が見えるのが何だか不思議だった。
「女の子ってすごい……」
 ようやく、口に出来た言葉はやっとこれだけ。
 しみじみと口にしたリンクの隣に体を横たえて、ゼルダは気だるげに目を細めた。
「分かって貰えて良かったです」
 いつもゼルダはこんな気持ちを味わっているのか。そう考えると、何だか不思議な気分だった。道理でいつもぐったりとしてしまう訳だ……。そこまで考えて、ふとリンクは何の気なしに口にする。
「中だとどんなのなんだろうね」
「…………えっ」
「い、いや! ほら、ゼルダいつも中を突くと気持ちよさそうにしているから、中だとどんなになっちゃうのかな~っていうか興味本位というか……」
 女の子になってるは今だけな訳だし。気になると言えば気になるし。
 口にしたリンクの言葉にゼルダは呆気に取られて、それから「もう……」と仕方なさそうに息を吐いた。
「個人差はありますけれど、初めては痛いのでおすすめしませんよ。それに気持ち良くなるまでは……その、慣れとか相性とか、ありますし……」
「じゃあそこら辺のツルギバナナで試しちゃ駄目か……」
 痛いのは別に平気なんだけどな。口にするリンクを前に、ゼルダは断固として首を振った。
「絶対駄目です」
 リンクなら拾ったバナナでやりかねない。出来なくはないだろうが、それでは冷たいだろうし、何より気持ち良いところまではいかないというのが目に見えている。そんなしょうもないことでリンクの処女を失わせたくない。……彼は頓着しないだろうが。
「閃きました!」
 ゼルダはぱっと目を輝かせた。
「私が男性になればいいんです!」
 事故とはいえ、リンクの女体化が成功したのだ。となれば、逆もあって然るべきではないか。一周回ってとんでもない発想に行きついたゼルダを前に目を剥いたのはリンクの方だ。
「は!? え!!?」
「私が男性になれば、リンクの処女もちゃんと大事にできますし、奥の気持ち良さも教えてあげられると思います!」
「それは、あの、そうだと思うけど……」
「そうと決まれば、実験ですね!」
 ゼルダの目が俄然きらきらと輝き出す。暴走するモルドラジークよろしくな勢いに呆気にとられつつあるリンクだったが、不意に気が付いてしまう。この方はやると決めたら本当にやってしまう。女体の神秘が気にならないと言えば嘘になるが、ゼルダが自分自身に人体実験をするとなれば話は別だ。何があるか分からないし、事故などあっては以ての外だった。……それに。
「どちらかと言えば、『私』は今、ゼルダと気持ち良くなりたいな」
 くすりと体を起こす。見下ろしたゼルダの顔は真っ赤になっていた。
「……リンクがいい女すぎて困ります……」
「やっぱり女体化は今日一日で封印ってことで」
 でも、その間めいっぱい楽しみましょうね。
 幸いなことに、時間はまだたっぷりとある。部屋には姿見。広いベッド。そしてなにより男になっても女になっても愛し愛されてくれる人がいる。テーブルの上に置いている包みを渡したら、彼女は喜んでくれるだろうか。
 そんなことを考えながら、触れる指先は小さくて温かい。自然と口元が綻ぶことを感じながら、リンクとゼルダは再びキスをしたのだった。

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